成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第18回では、前回、前々回も取り上げた「スマート工場化の推進主体」の話を議論していきます。
スマートファクトリー化は製造業にとって推進すべき大きなテーマであるにもかかわらず、成果が出にくいという課題を抱えています。本連載では、スマートファクトリーで成果が出ないために活動を縮小する動きに危機感を持ち、より多くの製造業が成果を得られるように、考え方を整理し分かりやすく紹介しています。
第16回と第17回では、スマートファクトリー化で課題となっている「現場の巻き込み」と「経営の巻き込み」というテーマについて取り上げました。第18回となる今回は、これらの問題をさらに掘り下げ、推進主体として経営が推進すべきなのか、現場が推進すべきなのかについて、議論していきます。
本連載は「いまさら聞けないスマートファクトリー」とし、スマートファクトリーで成果がなかなか出ない要因を解き明かし、少しでも多くの製造業がスマートファクトリー化で成果が出せるように、考え方や情報を整理してお伝えする場としたいと考えています。単純に解説するだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じてご紹介します。
従業員300人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「第4次産業革命を進める」と指示され途方に暮れます。そこで、第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに訪問し、さまざまな課題に立ち向かいます。
矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)
自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長兼IoTビジネス推進室室長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、どっぷりのめり込む。最近閉塞感にさいなまれている。
印出 鳥代(いんだす とりよ)
ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。インダストリー4.0などを中心に製造業のデジタル化についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
さて、前回のおさらいです。第17回の「スマート工場化の効果を経営陣にどう示すべきか」では、スマートファクトリーを推進する中でよく課題として挙げられる「経営の巻き込み」問題について取り上げました。
スマートファクトリー化の本質的な成果を得るためには、従来の業務や部門の壁を破り、デジタル技術の活用を前提とした新たな枠組みを構築していく必要があります。その中ではどうしても経営陣の参加が必要になるのですが、その経営陣の理解を得るのが難しいというのが多くのスマートファクトリー推進者の課題となっているようです。
ただ、その解決策は地道に将来ビジョンやロードマップを基に説明を進めていくということでした。
打ち出の小づちのようにきれいに全てを解決できる処方箋のようなものはなくて、1つ1つを地道にやって理解を得ていくしかないのよ。まずは、前提として専務の説得の時にも話したように、将来ビジョンやロードマップなどの共通認識を下敷きに話すということね。
さらに、その将来ビジョンやロードマップに対する具体的な根拠としてスモールスタートでの実証を進め、将来ビジョンのマイルストーンとしていくことが重要だということでしたね。
将来的にはこういう絵を描いていて、そこと現在地ではこういうギャップがあり、それを埋める第一歩として現場でこういう取り組みをして成果を生みましたというロジックを示すの。そういう意味では、将来ビジョンに沿って水平展開などの拡張できる形でスモールスタートをするということがポイントかしら。
スマートファクトリー化を進める中で、デジタル技術およびデータの活用範囲を広げていけば、経営陣の意思決定が必要な場面が必ず出てきます。各企業の置かれている状況によって異なるのは当然ですが、将来ビジョンに基づきつつ、これらを象徴する小さな成果を積み上げていくことで進めるのが理解を得る近道だと考えます。
さて今回はこの「経営の巻き込み」と前々回取り上げた「現場の巻き込み」の問題をもう少し掘り下げていきます。MONOistの読者調査などでも「どちらかが主体者として進めるべきか」という推進主体者を問う声も多く出ています。この「推進者問題」について取り上げます。
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