矢面さんがまた今日も印出さんを訪ねてきました。
印出さん、こんにちは。この前はありがとうございました。
矢面さん、こんにちは。経営陣の理解は得られるようになった?
共通ロードマップと工場で進めてきたさまざまな取り組みの成果を、そのロードマップの中での位置付けを含めて説明したことで、徐々に雰囲気は変わってきたように思います。そうは言っても全面的に経営陣全てが好意的になったわけではなくて、徐々に理解者を増やしていくしかないですね。
そうね。簡単に進められるものではないかもしれないけれど、1つ1つ積み重ねていけば、否定する要素はどんどんなくなってくるわ。それで、今日はどうしたの?
今日は具体的な相談というわけではないのですが、愚痴っぽくなるかもしれませんが、そもそもこうしたスマートファクトリー化の取り組みは、誰が主体者になるのが良いんですかね。私のような立場の者が進めるからこんなに苦労するんでしょうか。
あらあら、矢面さんらしくないじゃない。
いや、ネガティブになって言っているわけではなくて、進めていく中で上も下も横もさまざまなところでぶつかったりするので、他にもっと良い進め方があるんじゃないかと考えたんです。
そうね。先にゴールを言えば、企業の運営の責任を経営陣が取るという前提に立つとすると、最終的には「経営陣が主体となる」ということが求められるわね。同じ目標の元、経営陣とあらゆる部門の主導者が一体となって進めるのが理想の姿よ。ただ、スマートファクトリー化で難しいのは、そこに至るまでの道筋が多岐にわたるということだと思うの。
どういうことですか。
スマートファクトリー化は多くの部門が関わり、さまざまな目的があり得るわよね。そこに向けて経営陣や各部門の危機意識も異なっていて、それぞれに相反的な利害関係もあるわ。“経営陣とあらゆる部門の主導者が一体となって”という状態を作り上げるまでに大きな苦労があるの。
なるほど、「経営の巻き込み」問題や、「現場の巻き込み」問題が話題になっているのもそこの意識レベルに差があるから生まれることですもんね。
そうそう。その理想のカタチの手前にある企業が多いので、こうした組織的な問題に苦しんでいるんだと思うの。
本連載で何度も紹介してきたように、スマートファクトリー化で大きな成果を得るためには、既存の業務や部門単位の改善活動とは異なり、部門の壁や業務の壁を越えた連携が必要になります。つながる範囲を広げていくと、意思決定を行う主体者もより上位の階層を巻き込む必要があり、最終的には経営陣の意思決定が必要になります。そのため、最終的には経営陣が主体となって進めるのが理想だといえます。
一方で、第16回でも紹介したように、スマートファクトリーで本当に価値のある成果を生み出すためには、現場でのアイデアや具体的な取り組みが必須であり、こうしたものが積み上がっていかなければ、全体を巻き込むような大きな将来像を描くのが難しいというジレンマがあります。
現場の経験値がなければ大きな将来ビジョンは出しにくい一方で、経営陣のビジョンやコミットメントがなければ、さまざまな現場で主体的に取り組むことが難しいという「鶏が先か卵が先か」問題が発生しているのです。
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