一方、生産現場では、工場の見える化を第一の目標に、IIoT(産業用IoT)プラットフォームを導入し、実際に稼働させて、データや実績を積み上げていくことを目指す。そのプラットフォームとして、今回の協業を機にPTCの「ThingWorx」を本格採用した。
「ThingWorxについてもVOLVOグループ傘下時代からPoC(概念実証)に取り組んできたが、UDトラックスとしてもThingWorxの活用が不可欠だと考え、本格導入に踏み切った。IIoTプラットフォームに関しては国内を含むいくつかのソリューションを検討したが、将来性や柔軟性などの観点からThingWorxがベストだという結論に至った」と小林氏は説明する。
生産現場ではSmart & Modern 2025のコンセプトの下、工場内のオペレーションにおけるロードマップを作成し、2025年にサイバーフィジカルシステム(CPS)を実現すべく、IIoTプラットフォーム(ThingWorx)を活用した見える化、自動化、効率化の取り組みを段階的に進めていく方針だ。小林氏は「将来的にCPSの世界が構築されれば、現物を作る前にバーチャル世界でさまざまな確認や検証が行えるようになる。そうした世界を実現するためにも、IIoTプラットフォームの構築が第一だ」と意気込みを述べる。
さらに、UDトラックスでは生産現場におけるAR活用のプロジェクトを立ち上げ、PTCのARソリューション「Vuforia Studio」「Vuforia Instruct」「Vuforia Chalk」の採用を決めている。Vuforia Studioを活用することで、Creoで設計しWindchillで管理された3Dデータを素早くARコンテンツ化できるため、生産現場での作業性や品質の確認などに役立てられる。また、Vuforia InstructによるARを活用した作業品質の向上や、Vuforia ChalkによるAR遠隔作業支援の実現なども狙う。
「VR(仮想現実)技術の活用についてはVOLVOグループ時代にも取り組んでいたが、ARに関しては今回のPTCとの協業を機に、初めて本格検討を開始するものだ。例えば、3D CADデータを活用した生産現場における作業指示や品質確認、レイアウト検討などに活用できるのではないかと期待している」(小林氏)
また、将来的な可能性として、アフターマーケットの領域においても、「Vuforia Chalkを活用したAR遠隔コミュニケーションによる作業支援が、出先などでの修理対応時に役立つのではないか」と、同社 デジタルソリューション・IT部門 国内販売・アフターマーケット ディレクターの浦野健吾氏は関心を示す。
AR活用と同じく、開発とアフターマーケットをつなげる新たなプロジェクトとして、2023年の本格稼働を目標に取り組んでいるのが、ドキュメントの作成から配信までを支援するPTCのソフトウェア「Arbortext」を活用したメンテナンスカタログ、パーツカタログ、サービスマニュアルなどのデジタル化だ。
Creoで設計されたデータは、WindchillによってEBOMで管理されるだけでなく、サービス情報に特化した構成情報(SBOM:販売部品表)にもシームレスに変換可能で、メンテナンスカタログ、パーツカタログなどのコンテンツのベースとなる情報として有効活用できる。Arbortextによってドキュメント作成や更新が自動で行えるようになり、元となるCADデータに変更が生じた場合には、その変更内容が自動的に反映される。また、Arbortextで作成したコンテンツ自身もWindchillで管理され、カタログ、マニュアル類は常に最新の状態に保たれたまま利用できる。これらコンテンツの配信には「Arbortext Content Delivery」が用いられる。
「商用車の場合、顧客のビジネスに直結するため、長期間、安心して使用できることが求められ、メンテナンスや定期点検などを適切かつ効率的に行っていく必要がある。だが、車両のバリエーションが非常に豊富なため、車両の技術情報やメンテナンスに必要なマニュアルなどを見つけるのが大変で、それらは常に最新の情報でなくてはならない。こうした課題をPTCのソリューションを活用することで解消していきたい」(浦野氏)
その他、アフターマーケットの領域では、顧客向けサービス対応の効率化に向けて、UDトラックスの技術サービス業務で発生する問題診断を実施し、迅速な問題解決へと導く、PTCのソリューション「Service Knowledge and Diagnostics(SKD)」の導入も進め、顧客サービスの均質化と満足度向上につなげることを目指すとしている。
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