特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

DXジャーニーを推進するUDトラックス、データ主導型モノづくり実現でPTCと協業製造業DX(2/3 ページ)

» 2022年08月09日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

日本企業でありながらグローバル企業の感覚を併せ持つUDトラックス

 一般的に、こうしたDXに向けた全社的な変革を推進していくためには、経営層の判断に基づくトップマネジメントが不可欠であるが、特に日本では、IT投資や先進技術の導入に慎重な企業も少なくない。

 そうした中、UDトラックスは日本企業でありながら、10年以上もの間、VOLVO(ボルボ)グループ傘下であったこともあり、ダイバーシティや働き方改革の推進をはじめ、グローバル企業の感覚を併せ持ち、経営層もIT投資やITインフラ整備にも前向きだという。

 特に、VOLVOグループといすゞ自動車との戦略的提携が発表され、いすゞ傘下に入ることが決まった2019年ごろから1つの組織としてITインフラ整備をさらに強化。データドリブンカルチャーの確立を目指し、もともと先行していたコミュニケーション領域に加え、開発、生産、調達、販売、アフターマーケットといった領域に向けても、ITツール活用やデジタル化を積極的に推進している。

 「コミュニケーションのデジタル化はコロナ禍以前から進めてきた部分だが、モノづくりの世界においてもデジタライゼーションの先進性をもって、課題解決やより良い社会の実現につなげていかなければならない。例えば、生産領域においては当社のパーパスである『Better Life』からブレークダウンして、『Smart & Modern 2025』というコンセプトを掲げており、2022年度は工場の見える化の実現に向けた活動を進めている。将来的には、見える化から予測につなげ、さらには予測に基づく経営判断やアクションの迅速化に発展させていきたい」(同社 デジタルソリューション・IT部門 上尾生産担当 ディレクターの小林大悟氏)

PTCとの協業とその取り組み内容

 今回のPTCとの協業では、組織/企業間におけるシームレスで高度なデータ連携を可能とするデータプラットフォームの整備と、アプリケーションのマイグレーション(移行)を進めていくという。

DXを加速するためのデータプラットフォーム構築などで協業する両社 DXを加速するためのデータプラットフォーム構築などで協業する両社[クリックで拡大] 出所:UDトラックス

3D CADとPLMの連携によるシームレスなデータ活用

 まず、開発現場では、設計業務にVOLVOグループ傘下時代から使用しているPTCの3D CADソリューション「Creo」を活用するとともに、PLMソフトウェア「Windchill」を導入し、クラウドによるデータの一元管理を実現している。3D CADについては、これまで他社CADを一部使用していたが、今回の協業を機にCreoに1本化。また、3D CADデータの閲覧/共有用のビュワーとして「Creo View」も採用している。

 そして、CreoとWindchillのデータ連携により、Creoで設計した3DデータとBOM(部品表)などの情報をシームレスに統合し、設計から生産へのダイレクトなデータ連携、例えば、作業指示書などの作成における自動化/省人化を目指すとしている。

UDトラックス デジタルソリューション・IT部門 開発・調達ディレクターの原田優氏 UDトラックス デジタルソリューション・IT部門 開発・調達ディレクターの原田優氏 画像提供:UDトラックス

 UDトラックスでは、これまでも3D CADデータを活用して、組み立て工程における、組み付け検討や品質検討などを行ってきた。しかし、3D CADによる設計データやBOMなどの情報を、生産部門へ渡す際、そのままの状態では作業者が指示内容を理解できないため、人手を介してデータを変換したり、工数を掛けて加工したりといった作業が必要だった。これはUDトラックスに限らず、業界全体で共通する課題でもあるが、同社はPTCとの協業によって、この課題解消に向けた一歩を踏み出そうとしている。

 その実現に向けて、原田氏は「人手作業が入ればリードタイムもコストも増加し、精度も低下していく。CreoとWindchillをつなぎシームレスなデータ連携を実現することで、余計な手作業を排除し、作業性を向上させて、リードタイム短縮とコスト削減につなげていくことを目指す」と期待を込める。また、生産現場への作業指示だけでなく、新規開発の車両を製造する際のレイアウト検討や、3D CADデータを活用した品質チェックなどにも役立てられる可能性があるとしている。

 さらに、UDトラックスでは、CreoとWindchill、そして同社のEBOM(設計部品表)のデータを連携させることで、自動的にデジタルモックアップを生成する仕組みも構築している。汎用(はんよう)性の高い機能や仕様、バリエーションをモジュールとして定義し、それらを基に短時間で最適な形状(部品データ)を生成して自動アセンブリを行うというものだ。実は、VOLVOグループ傘下の時代にも同様の仕組みを設計業務で活用していたが、同グループから離れたタイミングで、新たにUDトラックス独自方式の仕組みを急ピッチで構築したのだという。

 「300種類以上あるベースモデルに、顧客仕様に合わせた専用設計を施すカスタマーアダプテーションを行い、素早く顧客に価値を提供していく上で、デジタルモックアップを生成する仕組みはUDトラックスにとってなくてはならないツールだ。PTCにも協力を仰ぎながらVOLVOグループとは異なるUDトラックス独自の仕組みを作り上げることができた」(原田氏)

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