ニューノーマル時代のトップランナーへ、PTCジャパン桑原氏がSaaS戦略を語るトップインタビュー(1/3 ページ)

3D CADやPLM、さらにはIoT、ARの領域において存在感を示すPTCは、新たにSaaS(Software as a Service)戦略の強化を進めている。Onshapeの買収、そしてSaaS戦略の構想を実現するプラットフォーム「Atlas」について、PTCジャパン 代表取締役/PTC アジア太平洋地域 統括責任者の桑原宏昭氏に話を聞いた。

» 2020年09月16日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 3D CADやPLMだけでなく、最近ではIoT(モノのインターネット)、AR(拡張現実)の領域においても存在感を示すPTC。毎年6月に開催される年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx」では、新たなテクノロジーやソリューションの方向性が発表されてきたが、2020年6月開催のオンラインイベント「LiveWorx 20 Virtual」では、新たにSaaS(Software as a Service)戦略の考えについて、米PTC 社長 兼 最高経営責任者(CEO)のジェームズ・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏が語った。

 その話題の中心となった「Onshape」、そして「Atlas」と呼ばれる新たなプラットフォームとは何か。PTCジャパン 代表取締役/PTC アジア太平洋地域 統括責任者の桑原宏昭氏に聞いた。

PTCジャパン 代表取締役/PTC アジア太平洋地域 統括責任者の桑原宏昭氏 PTCジャパン 代表取締役/PTC アジア太平洋地域 統括責任者の桑原宏昭氏 [クリックで拡大]

PTCはなぜSaaS戦略を強化するのか

――PTCがSaaS戦略を強化する狙いはどこにあるのでしょうか?

桑原氏 少し時計の針を戻すと、以前までは、永久ライセンスの形式でソフトウェアを提供し、オンプレミスのお客さま環境に導入していただくというビジネスモデルが当たり前だったが、今日では、柔軟かつ拡張性の高いライセンス管理や運用が可能なサブスクリプション方式への移行が急速に進んでいる。PTCもサブスクリプション方式へ移行しているわけだが、ここが以降のSaaS戦略の強化にもつながる最初のターニングポイントだったといえる。

 まず、サブスクリプション方式への移行を果たした結果、何が起きたか。1つは社内の変化だ。従来の永久ライセンス方式でのビジネスモデルだと、どうしてもお客さまに製品をお届けするところまでがゴールになりがちだったが、サブスクリプション方式の場合、お客さまにソフトウェアを使い続けていただく必要がある。そのため、われわれの製品を通じて成功体験を得て、継続使用していただくというサイクルをいかに生み出していくかという、本来あるべき姿へと意識が大きく変わっていった。

 さらに、サブスクリプション方式への移行は、PTCの価値提供にも重要な役割を果たしている。われわれは、最新テクノロジーを提供し続け、お客さまのビジネスに役立てていただく機会を作っていく必要がある。常に最新環境が利用できるサブスクリプション方式によって、最先端のテクノロジーを提供し続けることで、お客さま自身のビジネスを変革、あるいは加速させ、PTCの価値を実感してもらうことが可能になると考えている。

 これらがサブスクリプション方式への移行によって起きた変化の一例だが、これはあくまでもソフトウェアライセンスの世界の話であって、それらを使用するハードウェア環境の構築や整備、運用、メンテナンスは、お客さま自身で行っていることが多い。IT業界でいえば、「Salesforce」に代表されるようにSaaSでのソフトウェアサービスの利用が進んでいるが、製造業、製品の設計開発の世界では遅れている。

 ジム(ヘプルマン氏)自身も、設計開発の領域であっても、SaaSという世界に踏み出さない限り、お客さまに対して、最新テクノロジーを提供し、サブスクリプションをフルにご活用いただき、PTCの価値を実感していただくという世界は実現できないとの思いを抱いていた。

 実は、PTCがサブスクリプション方式に移行した当初から、設計開発の世界におけるSaaSビジネスの可能性を模索し続けていた。実際、米国では「Windchill」がもともとWebブラウザベースのPLMソリューションということでクラウドとの親和性も高く、「PLM Cloud」という形でSaaS型の提供を始めていたが、設計領域、3D CADの「Creo」に関してはいくつかの検討課題もあり、SaaSへの移行には進み切れていなかった。

将来トップランナーであるために必要な決断

――そこで、Onshapeに狙いを付けたということでしょうか? また、Onshapeの技術的優位性はどこにあるのでしょうか?

桑原氏 Onshapeとの出会いについて語る桑原氏 [クリックで拡大]

桑原氏 Onshapeとの出会いは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックの1年ほど前の出来事だったので、今思えば運命的な出会いだったように感じる。ただ、当初は完全なSaaS型3D CADに対して懐疑心を抱く関係者も少なからずいたのだが、「これ(Onshape)はまだ早過ぎるかもしれない。だが、将来必ず来るであろう世界に今投資しなければ、PTCはそのときトップランナーでいられなくなるだろう」とのジムの一声により、Onshapeを傘下に収めることとなった(2019年11月買収)。

 ここまでお話してきたように、Onshapeの買収は何も突発的な出来事ではなく、SaaSモデルにより、サブスクリプションの活用をさらに加速させ、PTCの価値をより広く、多くのお客さまに届けたいというゴールを目指していく中での必然的な出会いだったといえる。

 Onshapeは“SaaS型製品開発プラットフォーム”と位置付けられており、Webブラウザ上で3D CADが動かせるという単純なものではなく、クラウドの利点を生かした、データ管理や複数の設計者同士によるコラボレーションを強く意識した製品となっている。

Onshapeが提供するもの Onshapeが提供するもの ※出典:PTCジャパン [クリックで拡大]

桑原氏 もちろん、SaaSアプリケーションであるため、インストールやメンテナンスが不要で、ファイル管理もGoogleドキュメントのようにシングルデータソースで扱える。マルチデバイスに対応しており、大規模アセンブリでも軽快に動作する。完全SaaS型のOnshapeは、他の「クラウドベース」と呼ばれる3D CAD製品とは一線を画すものだ。

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