先述の通り、電解質に固体電解質のみを使用し、構成材料が「全て固体」であるのが「全固体電池」です。全固体電池といえば、充電時間が短くなる、1回の充電での走行距離が大幅に伸びる、EVにおけるゲームチェンジャーになるのではないかなど、何かと注目されがちな電池技術ではあります。
しかし、トヨタ自動車が2021年9月7日に行われたオンライン説明会でも触れた通り、充放電に伴う活物質の体積変化により、固体電解質と活物質の間に隙間が生じてしまうことで電池寿命などの特性低下を引き起こすというのが大きな技術課題の1つです。
この問題を解決するために考えられたのが「液添加型」の半固体電池です。活物質の体積変化後も固体電解質との良好な接触界面を維持するため、流動性のある液体材料や柔軟性をもったゲルポリマーを少量添加し、生じてしまう隙間を埋めてしまおうというアプローチです。
例えば、公開されている特許(特開2017-168435)では、イオン液体を電極添加剤として用いることで良好な界面形成をする事例が示されています。その他には日本ガイシの105℃対応車載用電池「EnerCera」のように多孔質セラミックスに少量の電解液を染み込ませている構成の電池も「液添加型」の半固体電池と呼べるかと思います。
以上、半固体電池に区分することができる3つの構成について整理してみました。
こういった半固体電池のメリットの1つは「早期実用化」です。技術的な難易度が高く、今も世界中で研究/開発が進められている全固体電池と比べると、半固体電池は実現性の高い技術であるといえます。特にゲルポリマー型の一部は既に実用化されている電池でもあり、製造設備も既存技術の延長線上で対応できるため、比較的早期の実用化が可能となります。
一方、構成によっては微量とはいえ液体成分を含むため、「固体電池」である必然性や使用温度帯の広さ、発火リスク低減といったメリットが全固体電池よりも薄れてしまうことが懸念点として挙げられます。冒頭にご紹介した日産自動車による全固体電池の開発状況発表の中で「半固体電池」よりも「全固体電池」を優先すると語られた理由もこの点にあります。
「半固体電池」の多くは「全固体電池」と比べると技術的な難易度があまり高くなく、既存技術の延長線上で量産対応可能なものであるという点を踏まえると、「固体電池」の開発と市場投入は単に技術的な話だけではなく、「液体→半固体→準固体→全固体」という開発の流れのどこで製品化するのか、どこまでの性能や完成度を求めるのか……といった各社の戦略の要素を含んだ話であると考えた方がいいのかもしれません。
繰り返しになりますが「固体電池」と名の付く電池を取り巻く状況は非常に混迷を極めています。あまり目先の情報に一喜一憂せず、報道や文献の中で目にする「固体電池」とは、実際はどういったものであるのかを慎重に判断していく必要があるかと思います。今回ご紹介した内容が、読者の皆さまの情報整理や理解の一因となり、何かのお役に立てれば幸いです。
日本カーリットの受託試験部では、今後も多種多様な電池/デバイスの性能評価を通し、電池技術の発展に貢献できるよう努めて参ります。
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
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