欧州自工会から脱退して独自にフォーラムを開催、分からないステランティスの狙い自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)

» 2022年06月19日 09時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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補助金の終わり、支援なしでのEV販売

 ステランティスは業界団体として欧州自動車工業会の発信内容が合わないと考えているのでしょうか。例えば欧州自動車工業会は、2035年にHEV(ハイブリッド車)の販売も禁止する気候変動対策の案が欧州委員会から出されたときに、エンジン車とHEVを禁止することは現在では合理的ではないと表明しました。現在も、代替燃料も活用したCO2排出削減を検討するよう求めています。

 ステランティスは2022年春に発表した最新の電動化戦略の中で、2030年にEVの販売比率を欧州で100%、米国で50%に引き上げました。従来の計画では、2030年にPHEV(プラグインハイブリッド車)とEVの販売比率を欧州で70%、米国で40%にする考えでした。欧州委員会の案を踏まえた上方修正のようです。

 EVシフトに前のめりではない欧州自動車工業会と距離を置きたいのでしょうか? フォルクスワーゲン(VW)は、HEVも禁止、つまりエンジンを搭載したクルマの販売を禁止するという案に大賛成でしたが、引き続き欧州自動車工業会のメンバーです。何かの方針が合わないだけで業界団体から脱退するというのは考えにくいですよね。自動車の業界団体が扱うテーマは、EVの普及目標だけでなく、環境技術全般、雇用や税金、安全技術の評価や普及などさまざまであるはずです。

 2030年に欧州でEVの販売比率を100%にする計画のステランティスですが、欧州では購入補助によるEV普及支援は当てにできません。欧州委員会は、EVやFCV(燃料電池車)、PHEVといった「ZLEV」(ゼロエミッションもしくは低排出ガス車、CO2排出量が50g/km以下のもの)の導入に対するインセンティブを2030年には廃止するべきであると考えています。各社がゼロエミッション車を市場に多く投入する中では、購入インセンティブが本来の目的を果たさない可能性がある、というのがその理由です。

 2030年までに自社のユーザーをEVに乗り換えさせれば補助金が終わろうと関係ない、と考えることもできます。ただ、ステランティスの傘下にはプジョー、フィアット、シトロエンといった比較的手ごろなブランドも多いです。

 英国では、一足先に乗用車タイプのEVやPHEV向けの購入補助が終了しました(※3)。以前から2022〜2023年で購入補助を打ち切ると宣言されており、補助金の規模や対象を段階的に削減しても販売に影響がなかったことを、購入補助終了の理由に挙げました。2011年には1000台未満だったEVの販売が、2022年は1〜5月だけで10万台にまで増えており、EVは英国の新車の6分の1を占めています。

(※3)Plug-in grant for cars to end as focus moves to improving electric vehicle charging

 補助金の財源は、タクシーやバイク、バン、トラック、福祉車両といったEVに振り向けられます。さらに、公共の充電インフラにも投資されます。これらの領域が、EVシフトの今後の課題となると位置付けています。2022年後半の乗用車タイプのEV販売がどうなるか、注目ですね。

クルマを買う動機は補助金だけではない

 補助金のあれこれについて語ってきましたが、補助金があればどんなクルマでも売れるわけではありません。クルマが欲しいから検討して、補助金が背中を押すという流れで買い物をするはずです。

 日産自動車の軽EV「サクラ」と三菱自動車の「eKクロスEV」の出足が好調です。サクラは発売から3週間で1万1000台を受注しました。eKクロスEVは発売から1カ月で3400台を受注しています。合計で1万4000台を超える受注となりました。ちなみに2021年の年間販売で見ると「リーフ」(1万843台)や「エクストレイル」(1万2016台)を既に上回っており、「デリカ D:5」(1万4790台)に匹敵する台数です。

 スバルのEV「ソルテラ」も想定を上回る売れ行きです。日刊自動車新聞によれば、受注開始から1カ月半で月間販売目標の150台よりも多い500台の受注を獲得しました。8割が現金で購入しているとのことです。

 政府が何と言おうと、政策がどうであろうと、業界団体が何をしていようと、最後に購入を決めるのは一人一人の消費者なんですよね。結局は、いいクルマをつくれるかどうかに懸かっています。

→過去の「自動車業界の1週間を振り返る」はこちら

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