続いて、連載第8回で、チェッカーフラグが多く出た“つり橋”を題材にします。連載第8回と少し条件を変えて、a=0.3としました。設計空間の30[%]が実体を占めるというものです。Gtargetは0.85[-]です。図17に、密度ρiの変化を示します。今度はつり橋のロープの部分がチェッカーフラグではなくなり、ちょっとつり橋に近づきました。
aが0.375[-]のときの、チェッカーフラグ対策あり/なしの比較を図18に示します。対策なしでは見事にチェッカーフラグができています。
平均コンプライアンス、つまり物体に蓄えられるエネルギーの比較を図19に示します。今度も初期の値Aよりも小さくなりました。今まで示したどの事例でも、チェッカーフラグ対策により物体に蓄えられるエネルギーは大きくなってしまいます。軽石のような“真の最適化”を追求するか、“製品にしやすい形状”にするかの分かれ道のように思います。
「最適化結果は節点座標として得られるので、STL形式のデータを作って、3Dプリンタで作ればいいじゃん!」という、楽をしようとする発想はあまり賛成できません。筆者は、最適化形状を咀嚼(そしゃく)し、どういう理由で形が決まったのかを理解して、部品の設計をした方がよいと思っています。金属3Dプリンタで作った部品は、引張強度は素材の強度が出ますが、疲労強度は素材の3分の1程度ですので、後で痛い目に合うかもしれません。
最後に「Michell truss」(参考文献[2])にトライします。Michell trussはコンピュータのなかった時代に発表された構造で、どのような形状にすれば強度を確保しながら材料費を減らせるかという問題の1つの解です。図20のような形をしています。極座標形式の式6で計算される曲線の集合です。それぞれの曲線が直交しているところが特徴です。
境界条件を図21に、最適化結果を図22に示します。参考文献[2]では、個々のトラスの太さに関する言及はないのですが、個々のトラスは同じ太さではなく、それぞれのトラスの太さにも最適解があると分かったことは収穫でした。他のトポロジー最適化による文献は、見事にMichell trussを導き出しているのですが、今回は要素数が少なかったようです。図22で青色部分が直角になった結果が得られたということでご容赦ください。
次回から「領域最適化」に挑戦します。トポロジー最適化は設計初期段階で使用しますが、領域最適化は部品の形状が決まった後、「強度計算をしたら応力が10%足りなかった……。さて、どうしよう?」といった場面で活躍します。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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