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産業用イーサネットのギガビットとTSNへの対応はどうなる? 5団体が議論産業用ネットワーク技術解説(3/3 ページ)

» 2022年03月10日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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TSN規格の正式発行は2024年5月を予定、さらに遅れる可能性も

 TSNについては、現在もIEEE(米国電気電子学会)内のIEEE 60802で規格策定が進められている状況で、正式な規格文書は発行されていない。標準のイーサネットを基にIEEE 802.1 TSNとしての拡張を行うためのさまざまな規格策定に向けた作業が進められているところだ。

 IEEE 60802の規格策定作業で大きく貢献しているのがETGだ。ETGの小幡氏によれば、IEEE 802.1 TSNの規格発行は2024年5月の予定である。「ただし、規格発行に75%の賛成が必要なのに対して、2021年3月に出たドラフト1.3は賛成が40%程度しかなかった。変更要求のコメントも1000件以上出ており、これらを解決することを考慮すると、2024年5月の発行はかなり厳しいのではないか」(同氏)。

 TSNへの対応については、各社から以下のようなコメントがあった。

 いち早くTSNに対応したCC-Link IE TSNを投入しているCC-Linkは、現時点でIEEE 802.1 TSNの拡張のうち、時刻同期方式を規定するIEEE 802.11 ASと、スケジューリングに関わる時分割方式を規定するIEEE 802.11 Qbvを適用している。「今後は動向を見ながら、さまざまな拡張への対応を検討していく」(川副氏)。

 また、CC-Link IE TSNは既に203の対応認定製品があり、写真化学の大型3Dセラミックス3Dプリンタや、中国メーカーの靴の上部とソールを接着剤を使わずにつなげる表面活性化装置などに用いられている事例もある。

 PROFINETは、IEC/IEEE 61158においてTSNに対応したPROFINET over TSNという規格をリリースしている。ただし、認証試験のテストシステムが構築できておらず、PROFINETに対応したマスターコントローラーICもない。「これらの周辺環境が整えば、PROFINET over TSNの導入を進められるようになるだろう」(若命氏)。また、PIでもIEEE 60802の活動に参加しており、必要な拡張を取り込めるようにしているという

 EtherCATのTSNへの対応では、マスターポートと最初のスレーブポートをTSNスイッチでつなぎ、2番目以降のスレーブポートの接続は最初のスレーブポートでEtherCATフレームに変換されるので従来のEtherCATを用いることができる。このために必要なのは、IEEE 802.11 ASとIEEE 802.11 Qbv、フレーム割り込みなどを定義するIEEE 802.11 Qbuなどの拡張だという。「これらのIEEE 802.11 AS、IEEE 802.11 Qbv、IEEE 802.11 Qbuは規格が通っているのでデバイスは作れるが、その間でのストリームをどのように定義して、ネットワーク全体に流すのかという規格がまだできていないので、そこがしっかり決まらないと使えないのではないか」(小幡氏)。

 Ethernet/IPではまず、TSNへの対応に必須であるLLDP(Link Layer Discovery Protocol)を追加することで、近接する他デバイスの検出や、物理ネットワークのネットワークトポロジーのマッピングなどに対応する計画だ。これ以外ではそれほど大きな変更は必要なく下位互換性を確保できる見通しだ。「Ethernet/IPは、標準のイーサネットのデータリンク層とその上の標準のIETF定義のIP/TCP/UDP層を使用して設計されているのでTSNへの対応は大きな変更は必要ないだろう。正式に規格がリリースされてから対応する方針だ」(今井氏)。

 装置内のネットワークとしての利用が多いMECHATROLINKは、装置外部とつながるTSNネットワークに対して必要な情報を共有できるような体制をとれるように対応を進めている。「将来的には技術のアップデートなどで状況は変わってくるかもしれないが、現状ではユーザーから『これで問題ない』という評価をいただいている」(下畑氏)。

 半導体メーカーのTIとしては、産業機器向けプロセッサである「Sitara AM243x/AM64xx」が、TSN対応で必要になる拡張として挙げられたIEEE 802.11 AS、IEEE 802.11 Qbv、IEEE 802.11 Qbuなどを利用できるようにしている。今後の策定が進むTSN規格にもソフトウェアベースで対応が可能としている。

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