ライセンス料の設定については、ライセンス対象特許の希少性や重要性、ライセンス対象特許発明を実施する製品の市場規模、ビジネスモデル、販売価格、利益率、製品寿命、または本製品の付加価値における当該特許などの貢献度合いといったさまざまな要素を考慮して検討することとなります。なお当然ですが、これらの要素だけでなく、協業の全体を踏まえた利害調整も踏まえる必要があります。
ライセンス料の支払方法としては、ビジネスモデルなどにもよりますが、(1)ライセンス契約締結時にまとまった金額を支払い(イニシャルフィー)、(2)その後は実施量に応じて定期的に支払う(ランニングロイヤルティー)という形態がよく見られます。
なお、イニシャルフィーとランニングロイヤルティーの料率はトレードオフの関係になることもあります。ここで資金繰りに苦労しがちなスタートアップとしては、2つの選択肢が考えられるでしょう。1つはランニングロイヤルティーに重きをおいてハイリスクハイリターンを狙うというもの。当該事業がうまくいけば多くのロイヤルティー収入が見込めますが、事業が失敗すればロイヤルティー収入は大きく減少しかねません。もう1つはイニシャルフィーに重きを置いて足元のキャッシュフローを固める戦略です。こちらは事業の成否にかかわらず、頭金として一定額は確保できます。
参考として、モデル契約書(新素材)の該当箇所をご紹介します。
第2条1項 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本特許権の通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条1項および第7項に記載の条件で設定されていることを確認する。
第2条2項 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条第2項に記載の条件(ただし、ライセンス期間は本条第6項の定めが優先するものとする。)で設定されていることを確認する。
第2条3項 甲は、乙に対し、本地域内において、本製品2の設計、製造・販売のために、本特許権および本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権を許諾する。本特許権および本バックグラウンド特許権の対価は4条で定める。
第2条4項 乙は、前項所定の許諾地域外であっても、本製品2を輸出することができる。
第2条5項 乙は本製品に本商標を付すように努めるものとし、当該使用の限りにおいて、甲は、乙に対し、本商標の非独占的通常使用権を無償で付与する。
第2条6項 本条に定める実施権および使用権の許諾期間は、本契約の期間中または各権利の存続期間満了までのいずれか早いほうとする。
第2条7項 乙は、甲が、本特許権または本バックグラウンド特許権(日本の特許権および日本の特許法第127条に相当する特許法がある外国の特許権を対象とする。)に関し、無効理由を解消させる目的で訂正審判請求または無効審判手続における訂正請求を行う場合(以下「訂正等」という。)、甲が訂正等をすることを予め承諾する。
第7条1項 本単独発明にかかる知的財産権は、その発明等をなした当事者に帰属するものとする。甲および乙は、相手方に対し、各自の本単独発明にかかる知的財産権に基づき、相手方が本製品の設計・製造・販売行為をすることを許諾する。許諾の条件は別途協議の上定める。
第7条2項 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本研究の開始以前から甲が保有する別紙〇〇に定める特許権に係る発明を実施することを許諾する。
記
ライセンスの対象 :本製品の設計・製造・販売行為
ライセンスの種類 :非独占的通常実施権を設定
ライセンス期間 :本契約締結日から〜●年●月●日。ただし、期間が満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由(ライセンスの必要性が消失した場合を含むが、これに限られないものとする)に基づき更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間の更新期間で、同条件で自動的に更新されるものとする。
サブライセンス :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能
ライセンス料 :ライセンス期間中に乙が販売するすべての本製品の正味販売価格の●%(外税)
地理的範囲 :全世界
第4条1項 乙は、甲に対し、本製品2に関する本特許権および本バックグラウンド特許権に係る発明の実施許諾の対価(以下「ライセンス料」という。)として、以下の支払いを行う。
(1) 本契約締結日から1ヶ月以内に金●円(外税)
(2) 本契約の期間中に乙の販売するすべての本製品2の正味販売価格の〇%(以下「ランニングロイヤルティ」という。)
第4条2項 乙は、甲に対し、ランニングロイヤルティの計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の販売状況(販売個数・単価、その他ランニングロイヤルティの計算に必要な情報を含む)を[●から●日以内に]書面で報告するとともに、当該ランニングロイヤルティを当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。
第4条3項 乙は前項のライセンス料を甲が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は乙が負担するものとする。
第4条4項 本条で定めるライセンス料についての消費税は外税とする。
第4条5項 本条のライセンス料の遅延損害金は年14.6%とする。
今回は、事業連携指針を踏まえつつ、スタートアップとのオープンイノベーションにおける事業化段階の留意点のうち、ライセンス契約の注意点を取り上げました。次回は、スタートアップとのオープンイノベーションにおける事業化段階のうち、主としてAI(人工知能)領域での協業を想定した利用契約における留意点をご紹介します。
ご質問やご意見などあれば、下記欄に記載したTwitter、Facebookのいずれかよりお気軽にご連絡ください。また、本連載の理解を助ける書籍として、拙著『オープンイノベーションの知財・法務』、スタートアップの皆さまは、拙著『スタートアップの知財戦略』もご活用ください。
⇒前回(第6回)はこちら
⇒連載「スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜」バックナンバー
山本 飛翔(やまもと つばさ)
2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2016年 中村合同特許法律事務所入所
2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)/神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)
2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)/特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞
/経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー/スタートアップ支援協会顧問就任(現任)/愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師
2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)
「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)
『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)
「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)
「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)
ご質問やご意見などございましたら、以下のいずれかよりお気軽にご連絡ください。
Twitter/Facebook
スタートアップの皆さまは拙著『スタートアップの知財戦略』もぜひご参考にしてみてください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.