連載
» 2022年02月16日 09時00分 公開

発明のライセンス契約で考えるべき「料金」「許諾範囲」「支払い方」スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(7)(1/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第7回は前回に引き続き、共同研究で生まれた発明のライセンスをテーマに留意点を解説していく。

[山本飛翔,MONOist]

 前々回前回と2回にわたり、スタートアップとのオープンイノベーションにおける共同研究開発契約締結時の留意点をご紹介しました。

 連載第7回の今回は、オープンイノベーションで生まれた成果物を活用し、事業化を進めようとする際の注意点を解説していきます。特にライセンスに関する留意点をご紹介します。

⇒連載「スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜」バックナンバー

※本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクト等の意見を代表するものではないことを念のため付言します。

ライセンスが問題になる場面

 これまでの連載ではたびたび、新素材分野のモデル契約書を紹介してきました。その中に、共同研究開発契約とは別にライセンス契約を締結する想定事例が紹介されています。成果物について製品単位(同契約書ではヘッドライトカバー)でのライセンスを定めていたものの、契約締結後に当初の想定外の製品(同契約書ではテールランプカバー)にも特許発明を実施したい、というケースです。

 オープンイノベーションで創出された成果物の利用関係については、共同研究開発契約とは別途でのライセンス契約締結が求められる場面もあります。そこで以下では、共同研究開発の成果物を利用して事業会社が新製品を出す場合の留意点を解説していきましょう。

商標ライセンスにもルール設定を

 事業会社※1が展開予定の新製品について、スタートアップの技術を組み込む場合を検討します。スタートアップが当該技術について何らかの名称を付しており、さらに商標権も取得している場合、当該商標を新製品に付すようスタートアップから依頼される場合があります。

※1:ここではスタートアップのオープンイノベーションを進める相手方企業という意味。

 この場合、商標のライセンスは無償で行われることが多いと思われます。しかし、スタートアップが持つ商標の価値や、商標に備わっていると見なされるようなスタートアップの信用を毀損(きそん)する形で使用してしまうと、スタートアップの成長を阻害するおそれがあります。パートナーたるスタートアップの成長可能性が閉ざされることが事業会社側の不利益となることはこれまでの連載でご紹介してきた通りです。そこで、使用の仕方についても一定のルールを定めておくことが望ましいでしょう。

 この点、モデル契約書は以下のように定めています(ライセンス契約2条5項、同8条)。

第2条5項 乙は本製品に本商標を付すように努めるものとし、当該使用の限りにおいて、甲は、乙に対し、本商標の非独占的通常使用権を無償で付与する。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社。以下同。

※掲載に適した表記にするため引用元から一部改変。以下同。

第8条1項 乙は、第2条第5項の規定に基づき本商標を使用する場合、商標法その他関連法規の規定を遵守(じゅんしゅ)するとともに、本商標の機能を損ない、権利の喪失を招くことのないように努めなければならない。

第8条2項 乙は、甲の事前の同意なしに、以下の各号に定める行為を行ってはならない。ただし、甲乙間で協議の上、本契約に基づき使用可能な本商標に類する商標を定めた場合は、当該商標を本製品に使用することができるものとする。

(1)本商標を本製品に類似する商品に使用する行為

(2)本商標に類似する商標を本製品に使用する行為

(3)本商標に類似する商標を本製品に類似する商品に使用する行為

第8条3項 乙は、本商標の使用に際し、その商品の品質の低下等により、本商標にすでに化体されている業務上の信用を失墜させるような行為をしてはならない。

発明改良の取り扱い

 ライセンスの対象となる発明は、事業会社、またはスタートアップによって改良される場合があります。改良発明の利用関係をあらかじめ定めておけば、両者ともにその後の予期せぬ事業リスクを回避できるため、有益といえるでしょう。

 この点、ライセンサーたる事業会社の立場から考えてみます。発明を改良するに当たり、そもそも改良できない、または多額の追加ライセンス料が必要になる、といった事態になってしまうと、事業会社にとってはあまり都合の良いものではありません。共同研究開発に先行的に費用を投じていますし、さらにスタートアップに成果物に関する特許を受ける権利を単独帰属させていた場合、コストと利益のバランスが取れなくなります。そのため、事業会社が望めば無償でライセンスを受けられるように定めておくべきでしょう。

 他方、事業会社が改良技術を発明した場合のスタートアップの立場を考えてみましょう。事業会社が改良技術について特許権を取得して、スタートアップにライセンスしないとなると、事業の展開可能性が損なわれて成長を妨げる要因になるリスクがあります。事業会社が改良技術を発明した場合は、スタートアップに無償でライセンスすることが望ましいでしょう。この点、モデル契約書では以下のように定められています(ライセンス契約7条)。

第7条1項 甲は乙に対し、自己の裁量で、本契約期間中に、本特許権または本バックグラウンド特許権にかかる発明に改良、改善等をした場合(本製品に関する改良技術を開発した場合を含むが、これに限られないものとする)、その事実を通知し、さらに、乙の書面による要請があるときは、当該改良技術を乙に開示する。乙は、本契約第2条に規定される条件に準じて、本地域において、かかる改良技術に基づき本製品を製造、販売する非独占的権利を有する。

第7条2項 甲が当該改良技術につき特許を取得した場合、乙は、本契約に規定される条件に従い、本地域において、当該特許にかかる発明を無償で実施する非独占的権利を有する。

第7条3項 乙は、本契約期間中に乙により開発されたすべての改良技術を、開発後直ちに甲に開示し、当該改良技術につき、当該改良技術に基づき本製品を製造、使用および販売する無期限、地域無限定、無償かつ非独占的な実施権を、再許諾可能な権利と共に、甲に許諾する。

第7条4項 乙が、いずれかの国において当該改良技術の特許出願または実用新案出願を申請することを希望する場合、乙は甲に対し、かかる出願前に出願内容の詳細を開示するものとする。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.