次に、単位の重要性について、図6を用いて説明する。一自由度系の振動モデルとその理論式を示す。左辺には3つの物理量(慣性力、減衰力、弾性力)、右辺には外力が作用している。各項で単位の表現形式は全て異なるが、最終的に全てNになっていて、単位の整合性が取れていることが分かる。
図6は簡単な事例であるが、複雑な事例の場合には、その妥当性を評価する際に単位の整合性を確認することにより、正しい理論式を導出できる。このように、単位はモデリングの際の重要な指針といえる。
[2]並木雅俊、大学生のための物理入門、第1章:単位と物理量、講談社
摩擦力を例に、経験・経験式について考える。
図7に示すように、質量mの物体がある平面に置かれていて、この物体を水平方向に引っ張る際の力Fを「摩擦力」と呼ぶと、摩擦力Fと物体重量(抗力)mgの間には比例関係が成立し、その比例定数μを「摩擦係数」と定義している。これを理論・理論式と呼ぶ場合もあるが、ここでは経験・経験式と位置付ける。なぜなら、摩擦係数は材料、表面性状、物体の状況(静止しているまたは動いている)、表面形状(常に平面とは限らない)などによって大きく異なり、一義的に定義できないからである。
このように、理論と経験の葉境領域にある現象に関しては、今後、そのメカニズムを明らかにすることにより、理論化することが望まれる。既に述べたように、理論化された現象の適用範囲は非常に広い。
製品開発を行う際には、設計と生産が2本柱となる。設計/生産の理論的な取り扱いも研究レベルでは行われているが、現実的には経験と経験則に基づくことが多い。図8に設計/生産を実行する際の経験を言葉で表現(設計の基本、生産の基本)した例を示す。これらは既に述べたように、製品領域が異なれば当てはまらない場合も出てくるが、大方当てはまるのではないだろうか。
このような経験を経験則として整理した考え方として、Nam Pyo Suhの「公理的設計」(参考文献[3])がある。
なお、蛇足になるが、言い伝えや言い習わしも経験・経験則の一種といえる。“夕焼けがきれいだと明日は晴れる”はその典型である。
次回は、1Dモデリングについて、そのさまざまな導出方法を紹介する。 (次回へ続く)
[3]Nam Pyo Suh、公理的設計:複雑なシステムの単純化設計(日本語訳)、森北出版
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
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