理化学研究所は、独自開発した顕微鏡システムと画像解析技術を組み合わせ、マウスの小脳皮質の背側全域を同時計測することに成功した。その結果、変化し続けている感覚入力を、小脳全体でリアルタイムに表現していることを発見した。
理化学研究所は2021年11月10日、独自開発した顕微鏡システムと画像解析技術を組み合わせ、マウスの小脳皮質の背側全域を同時計測することに成功したと発表した。その結果、変化し続けている感覚入力を、小脳全体でリアルタイムに表現していることを発見した。
脳の機能については、領域ごとに異なる機能を担うとする機能局在論と、全体が協調して複数の機能を担うとする全体論の2つの考え方がある。小脳は、体の各部位に対応した領域が複数存在し、感覚入力で誘導されるプルキンエ細胞の複雑スパイクの発火が小脳皮質上で局在して生じるという、機能局在論に沿った結果が広く受け入れられている。
プルキンエ細胞は小脳皮質から出力する唯一の細胞で、巨大な樹状突起を持つ。この樹状突起内で、カルシウム濃度上昇を伴う複雑スパイクと呼ばれるバースト状の活動電位を示す。
今回の研究では、樹状突起のカルシウム濃度を計測して複雑スパイクの発生を光学的に検出するため、プルキンエ細胞の全活動を計測できる遺伝子組み換えマウスを作製。超広視野マクロ顕微鏡システムと画像解析技術により、小脳皮質の背側全域で全てのプルキンエ細胞の複雑スパイク発火を同時測定した。
その結果、それぞれのプルキンエ細胞は独立して活動しているのではなく、近くのプルキンエ細胞が同期して発火することが判明。研究グループは、このプルキンエ細胞クラスタを「セグメント」と名付け、感覚情報表現における役割を解析した。
マウスの四肢に微弱な電気刺激を与えたところ、小脳のほぼ全域で複雑スパイク応答が見られた。つまり、小脳には体の各部位に個別に対応した領野があるのではないことが示唆され、これまでの機能局在論を支持する考え方を覆す結果となった。
この複雑性スパイク応答からは、電気刺激を与えたタイミングと刺激を受けた筋肉を正確に読み取ることができた。これは、セグメントと呼ばれる小区域の活動パターンの組み合わせにより、小脳が全体として分散型の集団符号化をすることで、変化する外界や身体情報を表現していることを示している。
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