そこで、非接触で機器の振動計測を可能とするために開発したのがmiRadar CbMである。サクラテックの持つミリ波レーダー技術を応用しており、同様に非接触の振動計測が可能なレーザードップラー振動センサーが100万円以上と高価になるのに対して、20万円程度に抑えた。またこの価格は、高周波に対応する加速度センサーを用いた振動計とも同程度になっている。
miRadar CbMでは、自動車のADAS(先進自動運転システム)などで用いられている79GHz帯(77G〜81GHz)のFMCW方式(周波数変調連続波)ミリ波レーダーを採用した。周波数変調を施した送信波と、対象物で反射して戻ってくる受信波の差分から対象物の振動によって発生した微小な距離の変異を検知するとともに、この距離の変異から位相情報を取得することで振動も検知できる。
ADASのミリ波レーダーが、より遠く、より広い範囲の検知が求められるのに対し、miRadar CbMは機械の振動変化が起こりやすい場所の振動の検知を目的としている。このために、専用レンズアンテナによってスポット計測が行えるようにした。視野角は±3度で、5m先であれば50cm四方が計測範囲になるという。
miRadar CbMで高周波計測を可能にするキーパーツとなっているのが、アナログ・デバイセズのミリ波レーダー用MMIC「ADAR690x」である。FMCW方式ミリ波レーダーで高周波を検知するには、周波数変調の間隔(ランプ信号間隔)を短くする必要があるが、ADAR690xはそれが可能な高速かつ高精度のランプ信号発生器を備えており、miRadar CbMの製品化に大きく貢献している。ソフトウェアAPIで制御できるSDR(ソフトウェア定義無線)アーキテクチャも備えているので、将来のアップグレードや顧客、産業ごとのカスタマイズも容易である。
サクラテックは、もともとADAS向けに開発されたADAR690xをCbMの振動測定で活用する上でアナログ・デバイセズの支援を受ける一方で、ザイリンクスのプログラマブルSoC「Zynq」に組み込むレーダー信号処理IPを新規開発して高いデータスループットを実現するなど、miRadar CbMをミリ波レーダー製品として仕上げるための設計開発を担当した。サクラテック 代表取締役/CEOの酒井文則氏は「アナログ・デバイセズとは2016年からパートナーとして活動しており、miRadar CbMの開発でもしっかりと支援してもらった」と述べる。
miRadar CbMは、微小変位量で0.03μm(30nm)程度までの測定能力を備えている。この0.03μmの微小変異は、100Gで40kHzの加速度振動に相当する。高松市は「当社のハイエンドの加速度センサーである『ADXL1005』と同等の性能だ。このようなハイエンド加速度センサーを搭載する振動計と価格も同等であり、その上で非接触で計測できるという付加価値を備えている」と強調する。
なお、miRadar CbMの開発は完了しており、Zynqなど不足している半導体の調達を待って出荷する段階にある。「既に幾つか引き合いをいただいており、先行して試したいという要望があればできるだけ対応したい」(酒井氏)としている。
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