花王は、同社の研究開発拠点であるテクノケミカル研究所において、塗布するだけで物が滑り落ちる表面を作り出し、汚れなどの付着を抑制する水性のコーティング剤技術を開発したことを発表した。
花王は2021年10月27日、同社の研究開発拠点であるテクノケミカル研究所において、塗布するだけで物が滑り落ちる表面を作り出し、汚れなどの付着を抑制する水性のコーティング剤技術を開発したことを発表した。
窓ガラスに付着した汚れが景観を悪くしたり、屋根の積雪が家屋を倒壊させたり、太陽光パネルに付いてしまった鳥の糞(ふん)が発電効率を低下させたりなど、日常生活の中で、さまざまな付着物に悩まされるケースがある。付着物はこうした悪影響を引き起こす可能性があり、これらを除去するには多大な労力とコスト、エネルギーが必要となる。
このような課題に対して、同社はツボの内面を覆う潤滑液によって昆虫を滑らせて捕食(消化、吸収)するウツボカズラに着目。その内面構造を模倣した「滑液表面(滑る性質を持つ表面)」を、セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)と潤滑油を組み合わせたコーティング剤によって再現することに成功した。
コーティング剤によって、ウツボカズラのような滑液表面を再現するには、対象となる表面が常に濡れている状態を作り出す必要がある。そこで、同社は液体を保持する性質に優れたCNFと潤滑油を組み合わせることで、CNFが潤滑油を保持し、長期間にわたり微量の潤滑油が放出され続ける表面を作れると考えた。
しかし、潤滑油が疎水性(水をはじく性質)であるのに対して、CNFは親水性(水をはじかない性質)のため、そのままの状態ではなじまない。そこで、同社はこれまで培ってきたCNFの表面を疎水化する技術を応用して、潤滑油となじみやすくしたCNF(疎水化CNF)で潤滑油を強固に保持する技術を開発した。
同時に、環境や作業者の健康に配慮し、疎水化CNFと潤滑油を水中に微分散(乳化)させることで、有機溶媒を用いない水性のコーティング剤として開発を進めた。その際、同社はCNFが界面活性剤と同様の作用を持つことに着目。強い力をかけることで、疎水化CNFが潤滑油を覆った毬(まり)のような状態にして、水中に乳化させることに成功した。
さらに、同社は開発したコーティング剤を対象物の表面に塗布すると、毬のような構造体が積層した膜を形成していることを確認。これにより、当初の狙い通りにCNFが潤滑油を保持し、長期間にわたって滑る性質を維持できる表面が作れたとしている。
実際、テーマパーク「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)で飼育しているインコのケージにコーティング剤を塗った板を入れて、糞の付着抑制効果を検証したところ、塗布した板からは糞が滑り落ち、コーティング剤による付着の抑制効果を確認できたという。
同社は今後、今回のコーティング剤開発の知見を応用し、付着物によるトラブルの解消やさまざまな表面におけるメンテナンス低減に有効活用できるよう、用途に応じた提案を行い、商品としての発売も目指すとしている。
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