東芝グループはQKD関連技術の特許保有数において世界1位を達成した実績を持つ。2020年10月にはQKDの事業化を発表しており、同分野の技術開発において大きな強みを持っている。
TDSLが持つQKD技術の特徴について、同社 ICTソリューション事業部 QKD事業推進室 シニアフェローの村井信哉氏は、「高速で暗号鍵を送信できる点」にあると説明する。10dBロスの環境下では暗号鍵配送速度は300kbpsに達しており、これは他社(業界最大手)の技術と比較すると約50倍の速度に当たる。なお、通信距離にも強みを持っており、通信可能な距離は120kmと他社の約2倍に相当する。
通信の高速化を可能にしたのが、ハードウェアと工学制御技術の融合と、ソフトウェア面での工夫だ。光子検出にAPD(Avalanche Photo Diode)を採用し、光子の検出率向上のため周期的なバックグラウンドノイズを除去する自己差分型回路技術に加えて、光学素子制御と信号処理技術を融合させることで1GHzクロックでの動作を実現した。
ソフトウェア面では処理不可の高い秘匿性増強処理を並列実行するアルゴリズムを開発、採用することで、計算量を低減して、暗号鍵生成のスループットを向上させた。
光子を安定化する技術的工夫も取り入れた。光子は光ファイバーの中を伝播する際に、温度変化や光路長変化に影響を受けて位相や基底にずれが生じる。これを防止するために、安定化パルスを一定量送ることで平常時からのずれを検出、制御する技術を採用した。
また、TDSLでは現在、量子暗号通信の長距離化に向けた技術として「Twin Field QKD」の開発に取り組んでいる。現状の技術では、光ファイバーの通過時に光子が減衰するという物理的な制約から、QKDの通信距離は約100〜200kmに限られる。一方で、TDSLは量子暗号通信の新しいプロトコルを開発して光ファイバーを使った通信でも500km以上の通信が可能になることを示した。2021年6月には実証実験で600km以上の拠点間での通信にも成功している。遠隔地間で通信する際に、中間拠点を削減する効果が期待できる。
TDSLでは現在、金融機関や研究機関、医療機関向けのネットワークに量子暗号通信を適用する検証を進めている。将来的な展望として村井氏は、ユーザー間で量子暗号通信を利用できるようにする「量子鍵配送サービス」を事業の柱として成長させたいと語る。「まずは特定の顧客同士の間での通信サービスを提供し、将来的には大都市圏内、さらに大都市圏間や海外との通信に対応するサービスプラットフォームを実現したい」(村井氏)。
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