富士通は2020年10月13日、理化学研究所など国内外の研究機関と共同で量子コンピュータの実現に向けて開発を開始したと発表した。量子デバイスなどのハードウェアと、アルゴリズム、アプリケーションやアルゴリズムなどソフトウェア両方の領域で共同開発を進めて、量子コンピュータ実用化の障壁となる課題解決を目指す。
富士通は2020年10月13日、同社のR&D(研究開発)に関する戦略説明会(オンライン開催)の中で、理化学研究所など国内外の研究機関と量子コンピュータの共同開発を開始したことを発表した。量子デバイスなどのハードウェア領域と、アプリケーションやアルゴリズムなどソフトウェア領域の両方で共同開発を進めることで、量子コンピュータ実用化を阻む課題の解決を目指す。
量子コンピュータは動作方式の違いから「量子ゲート方式」と「イジングマシン方式」の2種類に大別される。このうち、古典コンピュータと同等の汎用性を備えながら、圧倒的な速度向上を達成するといわれるのが前者の量子ゲート方式である。実用化されれば、新材料の開発や金融市場の将来予測、物理シミュレーションを通じた新現象、原理の発見など、さまざまな分野で活躍すると期待されており、グーグルやIBM、インテル、マイクロソフトなど多数の企業がR&Dに取り組んでいる。
しかし、富士通 ICTシステム研究所 量子コンピューティングプロジェクト プロジェクトディレクターの佐藤信太郎氏は「現実的には、量子ゲート方式での量子コンピュータ実用化には2つの課題が残されている」と指摘する。
課題の1つが量子ビット数の不足という問題だ。量子エラー訂正機能を有する「誤り耐性量子コンピュータ」を実現するためには、100万ビット以上が必要といわれている。ところが、2019年10月に量子超越性を達成したと報じられたグーグルの量子コンピュータでも量子ビット数は53ビット、IBMの最新マシンでさえ65ビットしかなく、100万ビットには遠く及ばない。このため現状では、量子エラー訂正機能を持たない中小規模の量子コンピュータ「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device)コンピュータ」を古典コンピュータと組み合わせることで、量子コンピュータの実用化を目指す取り組みが各所で進んでいる。
もう1つの課題が、量子ビットを形成、操作する技術精度である。近年では、量子ビット操作精度は99%以上と高い水準に到達している。しかし、量子ビット数の増大は計算ステップ数の増加も引き起こすため、ステップを経るにつれて精度も指数関数的に低下してしまう。これを防ぐには、ハードウェアの改善に加えて、エラー緩和アルゴリズムなどソフトウェアの技術発展も必要になる。
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