トヨタ自動車のプレスリリースをWebサイトでさかのぼると、「全固体電池」という言葉が出てくる最も古いプレスリリースは2010年のものです。開発に取り組む次世代二次電池として、全固体電池と金属空気電池が挙げられており、全固体電池は「粒子間抵抗の低減に成功し、小型パッケージングが期待できる電池の全固体化に向けて一歩前進」とあります。とても息の長い取り組みですね。エンジン車の販売を禁じる近年のトレンドを受けて電動化を進めるための開発ではないことがよく分かります。
トヨタグループの電池開発は、豊田佐吉氏が発案した「佐吉電池」から脈々と続いているものでもあります。佐吉電池とは、100馬力で36時間にわたって連続で稼働し、重量は225kg以下、容積が0.28m3以下、という諸元の電池です。石油や石炭に頼らずに、太平洋を横断できる飛行機の動力源を日本で開発したいとの思いで発案されました。また、豊田中央研究所の代表取締役所長を務めた菊池昇氏は、豊田章一郎氏(トヨタ第6代社長、現名誉会長)と豊田達郎氏(トヨタ第7代社長)から「研究所で『エネルギーの缶詰』を研究してほしい」といわれたのだそうです。エネルギーを貯蔵して持ち歩けるようにすることから缶詰と表現されたのでしょう。
全固体電池は、よりよい電池を目指す上での複数の手段のうちの1つです。佐吉電池やエネルギーの缶詰。どちらも全固体電池を指したものではありませんし、この材料、この構造、この製法で……と決まったものでもありません。電池の理想形に向けて、さまざまなアプローチがあります。クルマの特性によっても、効果的な電池はさまざまです。バイポーラ構造を採用して進化したニッケル水素電池も「まだまだ活躍の余地がある」とトヨタ自動車は考えています。リチウムイオン電池もバイポーラ構造を適用する可能性があります。
BMWとトヨタは昨今議論が高まるカーボンニュートラルについて共通する姿勢があります。それは、目的と手段を混同しないよう訴えているところです。トヨタ自動車は「HEVは、EV26万台分の電池で、EV550万台分のCO2排出を削減してきた」と排出削減への貢献度を強調します。BMWのCEOであるOliver Zipse氏は、HEVを含むエンジン車を廃止しようとするEUの規制案に対し「有害なのは内燃機関ではなく化石燃料だ」とコメントしています。
なお、サーキュラーエコノミーに関して、BMWと同じく積極的なのは日産自動車だといえるのではないでしょうか(トヨタが何もしていない、日産よりも遅れているという意味ではありません)。モーターから短時間でレアアースを回収する技術や、量産車の生産工程で発生したアルミの端材のリサイクルなど、現実的なアプローチが発表されています。EVの使用済みバッテリーの回収と再利用についても着々と取り組んでいます。
トヨタはHEVの中古バッテリーについて、現役の中古車も多く、トヨタの元に返ってきたものはほとんどないといい、使用済みバッテリーの回収や再利用などについては豊田通商などと今後検討していくとしています。
BMWがIAAで発信したメッセージの通り、EVの台数だけではカーボンニュートラルへの貢献度を計るのは難しく思えます。電動化に関しては、進んでいる/遅れている、勝った/負けたの議論が多くて疲れてしまいますね。いろいろな会社がそれぞれのアプローチで取り組む方が健全だし、よりよいアイデアが出てきそうです。
将来の自動車のことにゆるゆると触れてきましたが、足元ではトヨタが9月の追加の減産計画や10月の生産調整を発表し、あわただしい状況です。直近で発表した9月の生産計画に対し追加でグローバルで7万台の減産、10月は海外18万台、国内15万台で合わせて33万台の減産となります。これにより、2021年度通期の生産見通しは従来の見通しから30万台減の900万台レベルとなります。
東南アジアでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期化していることによって現地に拠点を持つサプライヤーの稼働が難しくなっている他、半導体の供給が逼迫(ひっぱく)していることが要因です。この影響はトヨタに限らず多くの自動車メーカーを直撃しそうです。
日本自動車工業会では2021年7月からの状況について「前年のこの時期はコロナで落ち込んでいたが、足元の生産台数はそれよりもマイナスで厳しい状況が続いている。10月は7〜9月よりもさらなる減産の可能性もある。秋以降もCOVID-19の再拡大の影響や半導体の供給不足で不透明だ。納車待ちのユーザーに対して1台でも多く、1日でも早く届けられるよう取り組んでいる」と説明しています。
11月以降の挽回生産はどうなるのでしょうか。本格的に先が読めない状況になってきました。足元も将来も落ち着かない自動車業界ですが、とにかく体調には気を付けて、よく食べよく眠りましょう。
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