工業が縮小する工業立国である日本、歪な「日本型グローバリズム」とは「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(7)(7/7 ページ)

» 2021年09月06日 11時00分 公開
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国内経済の成長に必要な視点とは

 企業のグローバル化に取り残されたのは、国内の多くの事業者と、消費者でもある労働者(多くの国民)、そして政府です。海外進出した企業の現地法人は、日本からは半ば独立した存在ですので、国内経済とはほぼ切り離された状況といえます。

 そういう意味では、現在の「日本型グローバリズム」におけるグローバル化は、日本国内を豊かにはしてくれません。日本国内に残されたわれわれ自身が、国内でより豊かになっていくための経済活動を再構築していかざるを得ない段階に入っているといえます。

 前回取り上げた通り、現在日本は「相対的デフレ期」によって、外国と比べると相対的に物価が下がっています。特に製造業では物価の低下が著しいですね。最近では「安い日本」という言葉もよく使われるようになりました。逆に言えば、海外のモノやサービスが年々高くなっていっています。日本は現在、海外から見ても標準的な物価水準に収まりつつあるということは、今までのように現地生産を進めるだけでなく、国内生産からの輸出でもメリットの出せる産業も出てくるはずです。

 このような状況から考えると、これまでの海外進出一辺倒の方向性から、もう一度考え直す転機に入っているともいえるのではないでしょうか。そして、これらを解決するための、最も重要な観点が、国内経済を担う消費者でもあり労働者の労働への対価である「値付け」と「賃金」を継続的に上げていくことだと考えています。

 残念ながら、現在労働者は多くの企業で「コスト」と見なされ、この価値観がより安い賃金を求めて海外進出を進める大きな要因となっています。本来、企業から見れば、従業員は将来にわたって付加価値を稼ぐための人材であり「投資対象」であるべきです。

 国内経済を考える場合には、企業経営者は長期的な視野に立って、消費者でもある労働者に人材投資をしながら、その仕事の付加価値を高めていく姿勢が必要ではないでしょうか。そのためにも、「多様性の経済」を育て、規模の経済の価値観とバランスを取っていくことが必要と思います。

 「多様性の経済」は、主に国内の中小企業が、適正規模で適正付加価値の国産ビジネスを展開し、短期的な利益よりも長期的な付加価値の向上を目指す価値観です。安く大量に売るという「規模の経済」によるグローバルビジネスだけが、われわれの経済活動ではありません。

 逆に安く大量に売るビジネスにばかり価値を置きすぎたために、安いモノが溢れ、値上げができずに物価も停滞し、さらにより安く売るために人件費や仕入れ(他社の付加価値)を抑制するような停滞のスパイラルに陥っています。

 また、既に「大企業ほど労働者が不要になる」という矛盾が多くの大企業で発生しています。規模の経済を追うビジネスほど、新興国への海外流出からさらに自働化が進み、かえって労働者が不要となるためです。

 実は、国内企業の99%以上を占め、労働者の7割を雇用している国内経済の主役は中小企業です。そして、中小企業を主体としたニッチ産業は非常に多く存在します。高級品のビジネスに限らず、このような産業は国内でもあらゆるところに存在し、適正規模、適正付加価値が成立しやすい領域だと思います。

 今後人口が減少していく日本においては特に「多様性の経済」を少しずつ育て「規模の経済」とバランスを取っていくことが必要なのだと考えます。次回はこの人口の変化について取り上げていきたいと思います。

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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