スマート工場化を進めるのは現場の専門家? それともデジタル技術の専門家?:いまさら聞けないスマートファクトリー(11)(3/3 ページ)
そうね。うまくいっている企業は“三位一体”の座組で進めているところが多いもの。
現場の専門家とデジタル技術の専門家に加えて、これらを交通整理する推進役の人を加えて、3つの役割の人を組み合わせて進めるということよ。
なるほど。現場とデジタル技術の専門家間に立つ推進役としての役割を果たすということですね。
製造現場とデジタル技術、それぞれの専門家同士が対等の形で組み合わせても、それぞれの主張がぶつかり合う場合がどうしても多くなってしまいます。そのため、結局企業内の立場や役割などの影響を受け、軋轢(あつれき)なども発生し、正しく進められないような場合も生まれてきます。
そこでこれらを円滑に進めるために、スマートファクトリー化の本質的な目的を保った上で、両者の考え方をすり合わせ、言葉などを翻訳しながら推進する調整役としての部門や役割を設置するところが、成功企業の中では増えてきています。たまたま、両者の間に立てる人材を抱えている場合は、これらを兼任するようなケースも見られますが、新たにこうした座組を作り、この調整役の人材を育成するような取り組みが増えています。
「推進役」として必要な資質にはどういうものがあるのでしょうか。
将来的には先述したように製造現場とデジタル技術のそれぞれが分かり1人で進められるというのが理想だとは思うけれど、今は最低限両者の考え方や基本が分かって、“翻訳”できるようになればよいと思うわ。そして、それぞれの役割をスマートファクトリー化の目的に合うようにすり合わせることよね。
まあ、そんな難しいことを考える必要はなくて、今矢面さんがやっているようなことをそのままやればいいんじゃないかしら。
こうした製造現場とデジタル技術を結ぶ人材については、現在育成が始まったばかりで、まだまだ正しい形や教育方法やノウハウなども非常に少ないといえるでしょう。その中では、まずは、それぞれの知見に耳を傾けて、すり合わせを行うということが求められます。そして、各企業や現場によって得られたノウハウを共有し、広げていくことでさらにこれらを高めていくというサイクルが求められています。そういう意味では「推進役」にはこうした新たな領域に挑戦する気概が最も求められるのかもしれません。また、企業としては、組織としてこうした「推進役」を積極的にサポートするということも必要なのだと考えます。
さて今回はスマートファクトリー化で多くの製造現場が頭を悩ませる座組について議論を行いました。次回も、製造現場において失敗するパターンや見過ごされがちなポイントについてさらに掘り下げたいと考えています。
≫連載「いまさら聞けないスマートファクトリー」の目次
- スマート化で露呈する工場のサイバー攻撃への弱さ、安定稼働を守るための考え方
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第10回では、スマート工場化で避けて通れなくなったサイバーセキュリティ対策について説明します。
- 「スマート工場」の見え方はこんなに違う、現場視点と経営視点のギャップ
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第2回では、製造現場側見るとかみ合わない経営者側の視点から見たスマートファクトリーを紹介します。
- コニカミノルタが進める生産DX、デジタル化と現場力が生む“共通基盤”の真価
コニカミノルタでは、モノづくり革新への取り組みの中で、先進のデジタル技術を活用した独自の生産DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。コニカミノルタが取り組みモノづくり変革への取り組みの歴史と、今後目指すデジタル技術を活用した新たなモノづくりについて、2021年3月までコニカミノルタ 執行役 生産・調達本部長を務め、現在は顧問の立場にある竹本充生氏に話を聞いた。
- 製造現場にデジタルの目を、ファクトリーサイエンティストが生み出す価値とは
ベッコフオートメーションは2021年3月24日、オンラインイベント「ベッコフウェブテクノロジーセミナー2021〜春〜」を開催。同イベント内のパネルディスカッションとして「ファクトリーサイエンティストが牽引(けんいん)するものづくりの未来」をテーマに、ファクトリーサイエンティスト協会の活動について紹介した。
- スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。
- エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。
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