一方、業界団体は懸念を表明しています。ドイツ自動車工業会(VDA)はエンジン車とHEVを終わらせることはイノベーションの阻害であると訴えています。
欧州自動車工業会(ACEA)は、会員企業が2050年にclimate neutralを達成する目標を支持し、実際に投資もしていると前置きした上で、エンジン車とHEVを禁止することは現時点では合理的な方法ではないと訴えました。「内燃機関以外の動力源に移行するための適切な条件を整えるのに苦労している現状ではなおさら合理的ではない」(ACEA)としています。なお、ACEAの会長はBMWのCEOであるOliver Zipse氏が務めています。
Zipse氏は、「2030年の目標を達成するには短期間でEVの市場を大幅に広げる必要があり、EU加盟国や全ての部門のステークホルダーが大いに努力しなければ達成できない」「有害なのは内燃機関ではなく化石燃料。代替燃料が利用できない場合、2035年の目標は事実上の内燃機関の禁止だ。特定の技術を義務化したり禁止したりするのではなく、イノベーションに焦点が当てられるようにすべきだ」ともコメントしています。
2021年7月6日にACEAが発表したEVの販売動向調査によると、EVとPHEVが新車に占める割合は2020年に10.5%でしたが、EU加盟国のうち10カ国ではそのシェアが3%未満に落ちてしまいます。
EVのシェアが低い国のGDPは平均すると1万7000ユーロで、「手頃なEV」と受け止められる価格には地域差があるとしています。また、EVの市場シェアが特に低い国では充電ステーションが少なく、EU全体の1%未満という課題もあります。一方、EVのシェアが15%を超える国のGDPは平均4万6000ユーロで、EUでのEV販売の4分の3がスウェーデン、オランダ、フィンランド、デンマークに集中しています。
EVを便利に使っている人は日本でも珍しくありません。「走行距離が……」「出先での充電時間が……」「マンション暮らしだから充電環境が……」という心配は取り越し苦労である、と身をもって証明できる人もたくさんいるでしょう。EVはまだまだ不完全なクルマである、というつもりは全くありません。工夫次第でいかようにも利便性を高められると思います。
それでも、「義務や禁止ではなく、イノベーションや競争によってグリーンな欧州へ進んでいくべきだ」というZipse氏の言葉を個人的には応援したいです。これしか乗るものがない、という消去法でクルマを選ぶのは寂しいですよね。買った後にさまざまな気付きや考え方の変化があって、これもいいじゃんと思うかもしれませんが、クルマを選ぶときは不安や懸念を感じずに前向きに選びたいものです。
自動車の文化と歴史をけん引してきた欧州が消去法でクルマを選ぶ社会になっていくとしたら、それはとても残念ですね。
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