SiCウエハーの欠陥を無害化するプロセスを開発、SiCデバイスのコスト低減へFAニュース(2/2 ページ)

» 2021年03月03日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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6インチSiCウエハーでの実証は「豊田通商の協力があってこそ」

 一般的なSiCウエハーの製造プロセスは、SiCのインゴッドからウエハー状にスライス、研削したものに対して、その表面を機械研磨とCMP(化学機械研磨)で平たん化した後、エピタキシャル層を成長させる。研磨時に加工ひずみが形成されるだけでなく、エピタキシャル層の成長時にも、バッファー層とドリフト層の2層を積層する必要があり生産性低下の要因になっている。

 これに対してDynamic AGE-ingは、表面平たん化を行うアニーリング、加工ひずみ層を除去するエッチング、濃度1×1017〜5×1018cm-1の窒素添加によるSiC層の積層という3つのプロセスにより、表面からBPDを無害化したSiCウエハーを作成する。技術名称に用いられている「AGE」は、アニーリング(Annealing)、積層成長(Growth)、エッチング(Etching)の頭文字を取ったものだ。また、最終的に形成される表面のBPDフリー成長層の存在により、エピタキシャル層の成長時もドリフト層を積層するだけで済むので、従来手法よりも生産性を向上できるという。

従来の機械研磨とCMPのプロセスを置き換えることができる「Dynamic AGE-ing」 従来の機械研磨とCMPのプロセスを置き換えることができる「Dynamic AGE-ing」。BPD密度が高い品質の悪いSiCウエハーへの適用が可能であり、エピタキシャル層の成長時にもメリットが得られる(クリックで拡大) 出典:関西学院大学

 金子氏は「基礎技術は関西学院大学で研究を進めてきた高温材料技術になるが、SiCの個片レベルで行っていた実験結果を、6インチSiCウエハーに適用できるレベルまで拡大するのを1〜2年で実現できたのは豊田通商の協力があってこそだ」と強調する。

神戸三田キャンパスをサステナブルエナジーの一大研究拠点へ

関西学院大学の村田治氏 関西学院大学の村田治氏

 関西学院 副理事長で関西学院大学 学長の村田治氏は「Dynamic AGE-ingは、金子氏が20年来研究してきた従来とは全く異なる技術だ。2017年から始まった豊田通商の共同開発により実用化が加速し、今回の発表のような成果も得られた。今後も、こういったオープンイノベーションの枠組みをさらに広げていく」と述べる。

 なお、関西学院大学は2021年4月から、神戸三田キャンパス(兵庫県三田市)を拠点とする理工学部と総合政策部の2学部について、理学部、工学部、生命環境学部建築学部の理系4学部と総合政策部の5学部の体制に変更する。今後は、神戸三田キャンパスのこれら理系4学部を、Dynamic AGE-ingを手掛ける金子氏の研究室をはじめサステナブルエナジーの一大研究拠点にしていく方針である。

神戸三田キャンパスは2021年4月から理系4学部と総合政策学部の5学部制となる 神戸三田キャンパスは2021年4月から理系4学部と総合政策学部の5学部制となる(クリックで拡大) 出典:関西学院大学

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