関西学院大学は、高効率のSiCデバイスの製造に必要なSiCウエハーの欠陥を無害化するプロセス技術「Dynamic AGE-ing」を豊田通商と共同開発し、6インチSiCウエハーでの性能検証を完了したと発表した。
関西学院大学は2021年3月1日、オンラインで会見を開き、高効率のSiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)デバイスの製造に必要なSiCウエハーの欠陥を無害化するプロセス技術「Dynamic AGE-ing」を豊田通商と共同開発し、6インチSiCウエハーでの性能検証を完了したと発表した。今後は、半導体メーカーへのサンプル供給を開始するとともに、量産ラインへの導入に向けた評価検証や、将来的な普及が見込まれる8インチSiCウエハーへの適用に向けた開発を進める。
SiCデバイスは、一般的なSi(ケイ素、シリコン)ベースのパワー半導体と比べて、電力損失を大幅に削減できることが期待されている。既に複数の企業が量産製品を販売しており、自動車や鉄道のインバータ、太陽光発電システムのパワーコンディショナーなどへの採用が始まっている。
ただし、大きな課題になっているのが、SiとC(炭素)という異なる原子から成るSiCを結晶成長させた塊(インゴッド)から作成するSiCウエハーには、結晶成長時の過程で内在することになる基底面転移(Basal Plane Dislocation、BPD)などの結晶欠陥や、ウエハーとしてスライスして研削や研磨をする際に生じる加工ひずみなどが原理的に存在することだ。これらの欠陥やひずみがSiCデバイスの動作不良の原因となって歩留まりを向上できず、その結果としてSiCデバイスが高価になり、最終製品への採用が難しいという状況を生んでいる。
関西学院大学 理工学部 教授でグリーンモビリティ材料開発プロジェクト プロジェクトリーダーの金子忠昭氏は「関西学院大学と豊田通商が共同で開発したDynamic AGE-ingは、従来のSiCウエハーの製造で用いられてきた機械加工とは異なる、熱エッチングと結晶成長を統合した非接触型のナノ制御プロセス技術だ。SiCウエハーから原理的になくすことのできない結晶欠陥が存在することを前提にそれらを“無害化”するとともに、SiCウエハーを超高温下の気相環境に置いて表面の原子配列を自律的に整えることにより加工ひずみ層の完全除去も実現した」と語る。
例えば、市販の6インチSiCウエハーにDynamic AGE-ingを適用したところ、1cm2当たり数千個の密度で存在するBPDについて、デバイス製造に影響のあるBPDを6インチウエハー内で1個以下に減らせることを確認したという。
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