SDGsやESGの観点でも注目、COVID-19から「働く人」を守る米国の労働安全衛生管理海外医療技術トレンド(68)(3/3 ページ)

» 2021年02月12日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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標準化・グローバル化が進む職場の安全衛生管理

 ところで、職場の安全衛生管理に関する国際標準規格として、2018年3月に発行された「ISO 45001:2018 労働安全衛生(OH&S)マネジメントシステム」(関連情報)がある。ISO 45001は、労働安全衛生パフォーマンスの向上と労働関連の負傷および疾病の防止によって、組織が安全で健康的な職場を提供できるようにすることを目的としており、労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲として、以下のような事項を挙げている。

  • a)労働安全衛生パフォーマンスの継続的な改善
  • b)法的要求事項およびその他の要求事項を満たす
  • c)労働安全衛生目標の達成

 そしてISO 45001:2018では、「労働者(Laborer)」ではなく、「働く人(Worker)」という用語を使っている。働く人は、国際労働基準(ILS)に合わせて、「組織の管理下で労働するまたは労働に関わる活動を行う者」と定義され、トップマネジメントやボランティア、インターンシップ、外部提供者、請負者、個人、派遣労働者なども含まれる点が特徴だ。

 また、ISO45001:2018は、「共通テキスト<附属書SL>」に準拠して開発されたものであり、ISO 9000:2015(品質管理)、ISO 14001:2015(環境保全)、ISO 22000:2018(食品安全)、ISO 27001:2018(情報セキュリティ)、ISO 31000:2019(リスクマネジメント)など、主要なマネジメントシステム規格と共通の基本構造を持っている。特に、経営層レベルのマネジメント向けの標準的なサイクルとして、以下のような項目を提示している。

  • 組織の状況
  • リーダーシップ
  • 計画(リスクおよび機会の取り組みを含む)
  • 支援
  • 運用
  • パフォーマンス評価
  • 改善

 ただし、ISO 13485:2016(医療機器の品質管理)については、次回改訂で共通テキストに対応する予定であり、現時点では未対応となっている。

注目される労働安全衛生管理から人的資本管理への拡張

 さらに今、日本でも注目を集めているのが、2018年12月に発行されたISO 30414:2018(人的資源マネジメント - 内部/外部の人的資本報告向けガイドライン)である(関連情報)。この規格も、前述の共通テキストに基づいて開発されたものであり、主要な人的資本報告(HCR)領域として、以下のような項目を挙げている。

  • 法令順守と倫理
  • 費用
  • 多様性
  • リーダーシップ
  • 組織文化
  • 組織の健康、安全、ウェルビーイング(労働安全衛生管理含む)
  • 生産性
  • 採用、流動性、転職
  • スキルとケーパビリティ
  • 後継者育成
  • 労働力の可用性

 この規格と関連性が深いのが、2020年11月9日に米国証券取引委員会(SEC)が施行した改正S-K規制であり(関連情報、PDF)、「情報開示のトピックに、登録企業の事業を理解するために重要な範囲において、人的資本の記述を含める」という規定が追加された。

 米国内の株式公開企業は、万一、COVID-19に関わる重大な労働安全衛生関連インシデントが発生して企業経営に大きなインパクトが及んだ場合、投資家に対して、それに関わる情報を開示する必要に迫られているのだ。

 例えば、オハイオ州を本拠地とするクリーブランドクリニックは、COVID-19対応下の企業向けに、安全衛生管理支援ソリューションを開発・提供しており(関連情報)、ニューヨーク州を本拠地とするマウントサイナイは、医師、看護師、産業衛生専門家(例:衛生管理者)、人間工学専門家、ソーシャルワーカー、労災補償専門家から構成される職種横断的な医療チームを結成し、COVID-19対応環境で働く人の健康と職場の安全を維持するために、予防に焦点を当てた最先端の臨床サービスを提供している(関連情報)。

 このような世界的トレンドに対して、日本国内の医療機関や医療機器、デジタルヘルス関連企業がどのように呼応していくのか注目される。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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