D-PICS開発の歴史は2000年前後にまでさかのぼる。従来の大量生産から、多品種少量生産へと生産方式のトレンドが移行したことや、3D CAD対応PCの低価格化が進んだことを背景に、全社でのデータの有効活用方法などを模索する「デジタルファクトリー構想」が持ち上がる。D-PICSやデジタル屋台はその過程で開発された。
当初、デジタル屋台は1つの製品を1人が完成まで担当するという体制を取っていた。しかし、2010年代に入るとこれを変え、作業工程をモジュール化して切り出し、1人に割り当てる工数を減らした。
体制変更の理由について渥美氏は、「プリンタ製品カテゴリーでの他社との価格競争や、製品の高品質化要求が厳しくなってきた。このため、海外生産に乗り出して現地従業員を雇ったが、海外従業員の雇用がどの程度定着するか不透明だった。そこで、従業員1人当たりの工数を減らすことで、離職時に生産ラインに与える影響と、新人の教育コストを減らせるようにした。これが、現在の生産体制確立につながっている。また、1人1台生産の時と異なり、屋台周辺のツールを改善していって、製品の品質改善を図れるようにしたのもこの時期のことだ」と語る。
こうした変遷の中でもローランド ディー. ジー.が一貫してきたのが、“人中心のデジタル化”という方針だ。
「『いかに従業員がクリエイティブに働けるか』という問いかけが大事だ。モノづくりの価値を上げる上では品質向上や、スピード向上も重要だが、自分の能力を十分に発揮できる場を作業者に提供することも、同様に重要である。D-PICSでは作業者にデジタル屋台を1人1台与えることで、いきいきと働き、達成感を得てもらう。同時にそれらをQCD向上に結び付けるにはどうすればよいかを考え続けている」(渥美氏)
今後の開発課題としては、屋台間でのモノの受け渡しなど、工程間の「つなぎ」におけるロスタイム低減が挙げられる。この他、体調不良による欠勤など突然の人的アクシデントに対して、現場レベルで柔軟に対応できる体制を整えるなど、“人中心のデジタル化”を進める上で障壁となりがちな問題の解決を図っていく、と渥美氏は語った。
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