組み立てる製品によって差異はあるものの、デジタル屋台の導入コストは他社と比較して抑えられたものとなっている。「一般的なセル生産方式は、多品種少量生産に適しているとはいえ、それなりの生産量を出すことを前提としている。そのため、『コの字』型のレイアウトのセル作業台で、1〜2人程度の少人数が作業に取り組むのが一般的だ。その分、工具や治具や設備全工程のコストがかかりやすい。これに対して当社は、設計段階で組み立て時の障壁となり得る要素を減らすことで、必要となる工具や治具などの設備投資額を大きく抑えた」(砂子氏)。
現在、ローランド ディー. ジー.の国内拠点とタイ拠点で稼働中。今後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受けて、D-PICSを用いたリモート生産を検証する計画もある。
先述の通り、D-PICSの基本コンセプトは「人にやさしく、品質に強い」生産方式の実現である。
作業者への「やさしさ」とは、作業者の負担軽減に関する取り組みを指す。D-PICSは作業者が組み立て作業に集中できるよう、各種デジタルツールを用いて作業者の判断を最小限に抑える。もう1つの工夫が、開発部門と生産部門が連携することで、製品設計をデジタル屋台での作業に最適なものに落とし込んだ点だ。
「当社では、製品の開発初期段階から設計と生産準備を並行して行うコンカレントエンジニアリングを採用している。試作品のクオリティーを上げつつ、製品の垂直立ち上げの成功を可能にする仕組みだ。デジタルマニュアルに記載する組み立て工程の作成も当然、開発部門と生産部門が携わっている。生産部門が『できない』と感じた点は、すぐに開発部門にフィードバックして修正してもらう」(渥美氏)
また、ローランド ディー. ジー. 生産本部 製造部 部長の渥美光是氏は「開発の初期段階から生産側の人間も一緒に製品立ち上げを行う。こうした連携は両者の関係が非常に重要だ。連携によって、開発メンバーにもメリットを感じてもらえるような仕組みづくりを行っている」と指摘する。
品質面では、ディスプレイ上には作業指示が自動的に表示されるが、1つの組み立て工程が完了し、作業の抜け漏れがないかをD-PICSが自動確認するまで次の指示が表示されない仕組みを取り入れた。「これは、作業工程の過程で自動的に検査が行われるのと、実質的に同じことだ」(砂子氏)。加えて、各デジタル屋台がオンプレミスのサーバと通信して、製品のトレーサビリティーも確保している。
全体を通してみれば、これらの工夫が「1人1台生産体制」の実現につながり、結果的に、デジタル屋台の導入、運用コスト低減に寄与しているとも捉えられるだろう。「生産現場へのIoT導入において、コストは当社をはじめとする中小製造業者にとって主要な関心ごとだ。低コストのD-PICSの在り方は、他の中小製造業者にとっても参考になるのではないか」と渥美氏は語る。
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