モノづくり企業だからこそ、コトづくりも大事にするローランドDGデジタルモノづくり(1/2 ページ)

3次元切削加工機やUVプリンタ、ガーメントプリンタなどのデジタル加工機を手掛けるローランド ディー.ジー.は、機器販売だけにとどまらず、モノづくりを通じた“体験”を価値として提供するCOTOづくり事業にも取り組む。

» 2019年11月01日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 モノづくりの世界が大きく変わろうとしている。これまでは、モノ自体の品質や機能が価値として捉えられてきたが、身の回りにモノがあふれ返る現代において、そうした価値は少しずつ薄れつつある。消費者は単にモノを購入し、消費するだけでは満足せず、商品やサービスを通じた“体験”に価値を見いだしつつあるのだ。こうした変化を受け、今多くの企業で取り組んでいるのが「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトである。

 多様化する消費者ニーズ、変わりゆくモノの価値。企業の成長を支えてきた製品、コア技術を武器に、さらに事業を拡大していくためにも、コトづくりへの取り組みは避けては通れないだろう。そんな中、積極的にコトづくりに取り組む企業がある、ローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG)だ。

モノづくりを通じた“体験”を価値に

 ローランドDGの設立は1981年。電子楽器のローランドのコンピュータ業界向け子会社として誕生した同社は、設立当初、PCに接続して作曲や自動演奏が行えるコンピュータミュージック機や楽譜や図面を出力できるペンプロッタを発売。その後、ペンプロッタを発展させて、彫刻機やカッティングマシン、業務用大型インクジェットプリンタなどを世に送り出した。

1986年に発売されたモデリングマシン「PNC-3000」 1986年に発売されたモデリングマシン「PNC-3000」 ※提供:ローランドDG [クリックで拡大]

 また、忘れてはならないのが、3次元切削加工機である。実は、ローランドDGのビジネスの中で3次元切削加工機の歴史は長く、最初の製品「PNC-3000」が販売されたのが1986年のことだ。以降、さまざまなモデルを投入し、ローランドDGの3次元切削加工機は、多くの試作開発現場に採用されていった。そして、同社の3Dものづくり事業は3Dプリンタもラインアップに加え、拡大していくことになる。

 このように、ローランドDGは装置メーカーとして、機器販売を事業の柱に据えているが、何もモノ(機器)を売って事業を拡大することだけに固執しているわけではない。2018年9月から、同社が手掛けるデジタル加工機を武器に、モノづくりを通じた体験を価値として広く一般に提供する「COTO(コト)づくり」事業に取り組んでいるのだ。

 このCOTOづくり事業を立ち上げ当初から支える、同社 COTO事業部 COTO市場開発部 マーケティングユニットの伊藤智昭氏は「コトづくりにおいて忘れてはならないのが、“ニーズの本質”が商品/サービスを受け取る人の思いや気持ちにあるということだ。『あなただけの』『そこだけの』といった“限定的な体験”を作り出して、それらを手に入れた人が喜ぶ瞬間をイメージし、その思いをカタチにすることで豊かな経験や時間を提供したいと心掛けている。例えば、ギフトなどを提供しているショップにデジタル加工機を投入することで、コトづくりまで提供できる仕掛けを構築できる。顧客がそこで価値を実感し、共感してくれれば、巡り巡ってわれわれの機器の需要も拡大していくだろう。COTOづくり事業として、まずはコトづくりの新サービスを展開することが第一だと考えている」と狙いを語る。

ローランド ディー.ジー. COTO事業部 COTO市場開発部 マーケティングユニットの伊藤智昭氏 ローランド ディー.ジー. COTO事業部 COTO市場開発部 マーケティングユニットの伊藤智昭氏

COTOづくり事業、これまでの取り組み

 同社がCOTOづくり事業を開始して約1年が経過したが、これまで自らのイベント出展などによるCOTOづくり事業の訴求とともに、企業や店舗、ファブ施設などと協業しながらビジネスづくりにも取り組んでいる。

「Hondaウエルカムプラザ青山」で開催されたワークショップの様子 「Hondaウエルカムプラザ青山」で開催されたワークショップの様子。似顔絵をクルマ型のキーホルダーにプリントできる ※提供:ローランドDG [クリックで拡大]

 例えば、ホンダとのコラボレーションでは、ホンダの軽自動車「N-VAN」のプロモーションに併せて、UVプリンタなどのデジタル加工機を使ったコトづくり体験ができるクルマ「COTOVAN」を製作。似顔絵イラストレーターが考案した移動式アトリエ「N-VAN ART STAND」と連携し、似顔絵やフォトブースで撮影した顔写真をその場でクルマ型のキーホルダーにプリントしてプレゼントするワークショップを「Hondaウエルカムプラザ青山」で開催した。


デジタル加工機を使ったコトづくり体験ができるクルマ「COTOVAN」 デジタル加工機を使ったコトづくり体験ができるクルマ「COTOVAN」 ※提供:ローランドDG [クリックで拡大]

 また、店舗と連携した取り組みとしては、九州を中心に展開するホームセンターのグッデイの店頭にCOTOVANを置き、シール型紛失防止デバイスへの写真やクリップアートの印刷、傘チャームへの名入れができるワークショップを開催。店舗への集客や顧客満足度の向上につなげる取り組みを行ったという。

ホームセンターのグッデイで行われた店頭ワークショップの様子 ホームセンターのグッデイで行われた店頭ワークショップの様子 ※提供:ローランドDG [クリックで拡大]

 他にも、茨城空港で行われた空の日イベントなどの催し物や展示会などに、COTOVANを乗り付けて、コトづくり体験を一般消費者に向けて展開している。「これらはほんの一例だが、COTOVANによるワークショップだけで年間2000人以上がコトづくりを体験している。近年、モノを買う場所としてECサイトが主流になっているが、こうした体験に魅力を感じてもらうことで、店頭に足を運ぶ動機につなげてもらえたらと思う」(伊藤氏)。

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