先述したような「協調領域」の整理が進んだその先には、どういう将来像が描かれているのだろうか。おそらくは、現在のPCやスマートフォン端末のように、共通のアーキテクチャにより、各機能の仕様が明確化され、各デバイスや機構、ソフトウェアなどのベンダーが共通アーキテクチャに合わせて汎用的な部品開発をするという「水平分業型」が加速する見込みだ。
各種機械が工場内での作業の動きを制御する以上、モジュール化した部品を組み合わせるだけで、最適な作業を行えるわけではないため、そのコーディネーションや動きの質を高める役割は機械メーカーの役割として残る。ただ、それ以外の領域は、仕様を明確化し、協調領域として、PCやスマートフォン端末のように、多くのサードパーティーが参加できる枠組みへとシフトする見込みだ。
既に、産業向けIoT基盤では、アプリケーション領域でこれらを志向する動きが進んでいる。各社が「アプリストア」などを用意し、サードパーティーの開発を呼び込むとともに、アプリを販売する枠組みなどを作っている。
先述したファナックなどの「FIELD system」では、開発支援ツール「FIELD system Sutdio」を用意し、開発したアプリはファナックが運営するマーケットプレース「FIELD system Store」で販売できるようにしている。同様の仕組みは、ドイツのシーメンスが展開する「Mindsphere」などでも行われている。
また、PLCなど制御領域のオープン化を推進する動きも着実に進んでいる。PLCアプリケーションの開発効率化に寄与する国際規格IEC 61131-3をベースとして推進するPLCopenの動きは既にさまざまな領域で定着しており、IEC 61131-3対応PLCなどは着実に増えている(※)。
(※)関連連載:「PLCの国際標準プログラミング入門」の目次
加えて、PLCをさらに進化させる取り組みとして、ドイツのフエニックス・コンタクトが推進する「PLCnext」などがある。「PLCnext」は、従来のPLC用の言語と新たなコンピュータプログラム言語などを並行して使用できるような環境実現を目指す取り組みだ。Visual Studio、Eclipse、MATLAB/Simulink、PC Worx Engineerなどの構築されたソフトウェアツールの活用に加え、IEC 61131-3およびC/C++とC#でのプログラミングコードの活用もできるようにする。これらにより、サードパーティーによる機能追加や、オープンソースコミュニティーによる開発など、オープンプラットフォームで制御領域の革新を目指していることが特徴だ。
通信領域の標準化についてはOPC UAの存在感が高まっている。欧州の工作機械メーカーを中心に工作機械の共通インタフェースとして開発されてきた「umati」だが、これまで対象としてきた工作機械だけでなく、ロボットや射出成形機など工場内のさまざまな機械装置の共通インタフェースを総称するブランドとしてumatiを拡張する方向性が示されている。そして規格部分については、OPC UAの仕様の技術管理を行っているOPC Foundationが扱うとしている(※)。
(※)関連連載:「いまさら聞けないumati入門」の目次
同様に、射出成形機における規格「EUROMAP」で、OPC UAによる情報連携を示す「EUROMAP 77」などについてもOPC内のジョイント規格としている他、ロボットについての規格「OPC UA for Robotics」なども用意が進んでいる(※)。
(※)関連連載:「いまさら聞けないEUROMAP入門」の目次
(※)関連連載:「いまさら聞けない『OPC UA for Robotics』入門」の目次
「OPC UA」はドイツのインダストリー4.0の推奨規格とされており、産業用アプリケーションの相互運用を実現するオープンなインタフェース仕様として、さまざまな業界規格を結び付ける役割を果たすとしている(※)。
(※)関連連載:「OPC UA最新技術解説」の目次
これらの周辺における標準化などの整備が進むことで、従来は「垂直統合型」が中心だった生産機械領域でも「水平分業型」に進みやすくなる。スマート工場化が進む中、情報連携などの新たな領域と、リソースの最適化という2つの面で、徐々に「水平分業化」へのシフトが進むことだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.