業界初は譲ってもいいじゃない、後からもっと良いもので圧倒だ自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)

» 2021年01月16日 08時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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 車載用全固体電池の初の量産が中国勢ではイカン、と思う方もいらっしゃるでしょうか。「世界初」は自分たちでなければ、と。個人的には、時には後発になってもいいのではないかと思います(巻き返しができないほど市場を握られてからでなければ)。先に出たものよりも洗練された出来の良いものを出せば、誰が先だったかというのは大きな話ではなくなります。そんなことを考えたのは、オンライン開催の消費者向けエレクトロニクス展示会「CES2021」で、メルセデスベンツが発表した次世代のコックピットとインフォテインメントシステム「MBUXハイパースクリーン」がきっかけです(関連記事:超大画面ディスプレイは当たり前、メルセデスベンツは日時や場所を学習して操作を先読み)。

 ダッシュボード全面をディスプレイ化するという提案は、量産車やコンセプトカーで度々見かけます。メータークラスタをディスプレイ化したり、縦型の大型ディスプレイを搭載したりするのはもう目新しくありません。MBUXハイパースクリーンは、先行者がたくさんいる中で「メルセデスベンツが大画面をやるとこうなりますよ」と匂わせているように感じました。ただ横長の長方形のディスプレイを並べるだけではいけない、という強い意志もあったはずです。

 単に大画面のディスプレイであるだけでは、操作が煩雑になりかねません。ただでさえ多機能化が進むインフォテインメントシステムの機能を大画面で延々とスクロールするのは憂鬱です。だからこそ、メルセデスベンツはユーザーが必要とする機能を予測してトップに表示させる「ゼロレイヤー」も併せて発表したのだと思います。テスラのようにフラッシュメモリが原因でタッチスクリーンの大規模リコールというつまずきがなければなおさら格好がつきますね。

 オンライン開催のCES2021では、他にも自動車関連の発表が幾つかありました。基調講演に登壇したGM(General Motors)の会長兼CEOであるMary Barra氏は、物流向けに商用車タイプのEVや荷物を運ぶ電動パレットを紹介しました(関連記事:電動化に全振りのGM、全車種の電動化とともに物流向けEVサービスへ参入)。一緒に登壇したフェデックスのエグゼクティブバイスプレジデントのRichard Smith氏は「個々の配送は過去数カ月で予測できないレベルまで増えた。パンデミックが終息したとしてもこうした配送量は減ることはないだろう。2023年までに1日1億個の荷物を配送しなくてはならなくなる予測も出ている」と述べています。

 フェデックスのような大手物流事業者から街のレストランまでたくさんの企業が、かつてない量のモノを運んでいます。CES2021に合わせてグループインタビューを実施したHERE CEOのEdzard Overbeek氏は、中小のレストランへのサポートについて話してくれました。食事をテイクアウトする人が増える中で、街のレストランにはドライバーがいるわけでもなく、お客さんの住所や最適なルートに関する情報もありません。フードデリバリーサービスの大手も、配達の需要が増える中で従来以上にバイクや自転車での配達を効率化しなければなりません。最適なルートを提示するために、「ロケーションデータが活躍する余地は大きい」とOverbeek氏は見込んでいます。

 雑感ですが、今回のCESはちょっと先の未来ではなく、足元のための発表が印象に残りました。2017年のやや古い記事ですが、和田憲一郎氏が連載の中で「配車サービス会社による商品企画が増えていくのではないか」と指摘しました(関連記事:EV大反転、敵はとり得る3つの方針の中から4番目を選んでくる)。少し違いますが、物流やフードデリバリーは扱う物流量が増えており、課題に直面している企業も多いです。GMとフェデックス、HEREとフードデリバリーのように、特に困りごとのある業界に向けた企画によってビジネスの規模を生む例が増えていくのでしょうか。

 さて、今週はこの他にも読み応えのある記事を公開しています。1つは、電池の特性評価試験に携わるエンジニアによる新連載「今こそ知りたい電池のあれこれ」です(関連記事:なぜリチウムイオン電池は膨らむ? 電解液を劣化させる「過充電」「過放電」とは)。リチウムイオン電池は結局危険なものなのかというテーマに始まり、電池に関する基礎知識を分かりやすく解説していきます。電池の開発に携わっていない方でも、電池を使う製品を開発したり、日常生活で電池を使ったりしているのではないでしょうか。ぜひ読んでいただければと思います。

 自動車と「ソフトウェアファースト」について展望した記事も掲載しました(関連記事:自動車に「ソフトウェアファースト」がもたらす競争力を考える)。ハードウェアとソフトウェアを分離してソフトウェアを先行して開発することが「ソフトウェアファースト」の意味するところですが、ソフトウェアはハードウェアを動かすためにあるものですから、決してハードウェアを軽視するものではありません。これからハードウェアをどうしていくかという方針があって、ソフトウェアの開発が先に進みます。

 記事を読んでくださった方から「ソフトウェア重視はハードウェア軽視なのかと思っていた」というメールをいただいています。同じように思った方にはぜひ読んでいただきたいです。

→過去の「自動車業界の1週間を振り返る」はこちら

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