ヒケの発生は樹脂が収縮する以上、完全に抑えることは困難です。ですが、極力ヒケの発生を抑えるように対策をとることは可能です。
その1つが「極端な肉厚部分を避ける」です。製品の肉厚が厚ければ、それだけ表面と内部に“温度差”が生じやすく、ヒケが発生する可能性が高まります。特に、厚肉部と薄肉部が混在していると、厚肉部にヒケが生じて薄肉部との外観に差が生じてしまい、よりヒケが目立つことになります。製品の肉厚は、最適な肉厚でできる限り均一にすることが望ましいです。
リブやボスなどがある場合は、特にヒケが出やすいので注意が必要です。先程「肉厚は均一にする」と説明しましたが、一般の肉厚とリブの肉厚を均一にしてしまうと、リブの根本が厚肉になってしまいかえってヒケやボイドが生じやすくなります。そのため、「一般の肉厚に対してリブの肉厚は“7割程度”薄肉に設定する」のが理想になります。
リブやボスは一般の肉厚よりも薄肉にすることでヒケを生じさせにくくしますが、それでも交差する部分は何もない部分に対して、ヒケがどうしても生じやすくなってしまいます。ですので、リブやボスの設定はヒケが出るという前提で、製品として極力目立ちにくい場所に設定するように心掛けましょう。
また、リブやボスの薄肉化をもう一歩進めて、さらにヒケを生じさせにくくする方法もあります。それは「肉盗み」という方法で、リブやボスの周囲の肉厚を薄くします。こうすることで、表面と内部の固化するタイミングに大きな差が生じないようにします。
ただし、肉盗みの処理はヒケ対策としてはよいのですが、金型のことを考慮するとリブを薄肉化したものに比べて加工に手間がかかり金型のコストアップにつながります。従って、製品そのものが隠れてしまうような成形品であったり、製品として見えない部分であれば、ここまでの処理は必要ありません。
今回のヒケに限った話ではありませんが、試作で出ていなかった外観不良が射出成形において発生する……ということはよくある話です。製品設計側は量産時にどのような不具合が出るのか予測して設計する必要がありますし、金型製作者側は予測される不具合をあらかじめ伝えておくことが大切になります。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災をうけ、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。
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