量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第3回は、「抜き勾配」に関する理解を深め、成形品の表面に擦り傷が生じてしまう問題の解決に取り組む。
皆さん、こんにちは! モールドテックの落合孝明です。本連載「2代目設計屋の事件簿〜量産設計の現場から〜」では、量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その解決アプローチについて詳しく解説していきます。
それでは早速、今回の相談内容を見ていきましょう。
箱状の製品を射出成形で成形したところ、製品に擦り傷のようなものができてしまいました(図1)。この擦り傷はなぜ発生するのでしょうか? この擦り傷の解決策を教えてください。
射出成形は、溶融された樹脂を金型内に射出・充填(じゅうてん)し、その樹脂が冷却・固化されることで、製品形状を成形します。そして、金型から製品を取り出すわけですが、この取り出す過程で製品に傷が付いてしまうことがあります。
その製品が外部から全く見えない部品であれば、多少傷が付いていても問題ないかもしれません。しかし、それが外観部品だった場合、傷が付いたままでは製品としては“不良品”となってしまいます。そうならないためには、製品設計の段階で傷の発生を回避する工夫が必要となります。
成形時に生じる傷を回避するためには、製品設計の段階で「抜き勾配」と呼ばれる“角度”を設定する必要があります。
抜き勾配とは、製品を金型からスムーズに取り出すために、その製品自体に付けた傾斜のことです。文章で説明しても少々分かりづらいので、抜き勾配がない形状と、ある形状を図に示してみました(図2)。
それでは、勾配がない場合とある場合での“金型の動き”を見比べてみましょう。まずは、勾配がない場合の金型の動きです(図3)。
勾配がない場合の金型の動きは、次のようになります。図3の左から、金型が閉じた状態、金型が開いた状態、製品を突出した状態になります。一見、問題はなさそうに見えますが、この状態だと金型が開く時や製品を突き出す際に、金型と製品がこすれてしまいます。
このように、金型と製品がこすれることで、製品に傷が付いてしまうわけです(図4)。さらに言えば、勾配がないと離型性も悪くなり(成形した製品が金型から取り出しづらくなり)、製品を変形させてしまう可能性も高まります。要するに、抜き勾配のない製品は、その分“不良品”が出やすいといえます。
続いて、勾配がある場合の金型の動きを見てみましょう。
図5に示した通り、勾配が付いていることで、金型と製品がこすれずに離型していることが分かると思います。こすれずに離型しているため、製品に傷は付きません(図6)。このように、射出成形金型で“良品”を成形するには、製品に抜き勾配を設定することが必須といえます。
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