抜き勾配の設定ですが、「適当に角度を付ければよい」というものではありません。製品に抜き勾配を付ける際は、次の3つのルールを意識して設定する必要があります。
抜き勾配は、角度が大きければ大きいほど、金型からの離型性が良くなります(図7)。つまり、“不良品”の発生を減らすためにも、抜き勾配はできる限り大きくとる方がよいということになりますが、実際には公差や相手部品との関係など、製品に対して制約があるため、勾配(設定できる角度)が制限されるケースがほとんどです。
さらに、外観部分などの場合、勾配が大き過ぎると製品そのものの印象が変わってしまうため、デザインとの兼ね合いにも配慮が必要となります。
ここまでの説明の通り、良品を成形するためには、抜き勾配の設定が不可欠です。その際、製品の外周の勾配は“できる限り一定にする”のが理想です。
製品の外周の勾配が不均一の場合、離型抵抗が不均一となるため、離型バランスが悪くなります。離型バランスが悪いということは、金型から製品を突き出す際、剥がしやすい部分と剥がしにくい部分が混在していることを意味しますので、成形不良(不良品)となる可能性が高くなります。製品の外周の勾配が一定であれば、離型バランスは良くなるので、勾配が原因の成形不良は起きにくくなります(図8)。
ちなみに、製品の内部構造に「リブ」や「ボス」などがありますが、こちらの勾配については、製品の外周に合わせる必要はありません。
製品はそれ単体で成立する場合よりも、複数の部品を組み付けて1つの最終製品となるケースの方が多いかと思います。そのため、抜き勾配を付ける際は、その部品単体だけでなく、相手部品との関係性も十分考慮する必要があります。
例えば、図9のように基板が内部に収まる製品に勾配を付ける場合、赤色○印で囲んだ「A」の部分を基準に勾配を付けると、基板と製品が干渉してしまい、製品として成立しません。もし、Aを基準にした勾配で製品設計として通す場合には、基板の形状やサイズを変更しなければなりません。
次に図9の「B」を基準に勾配を付けた場合です。こちらは基板との干渉はなく、製品としても成立していることになりますので、基板の修正なしに、製品の勾配だけで解決できます。
ただし、基準Bで勾配を設定した場合、もともとの製品断面よりもサイズが大きくなってしまうため、注意が必要です。例えば、この製品の近くに別部品が組み付けられるようなケースでは、別部品との干渉に気を付けなければなりません。つまり、こうした状況においてBを基準に勾配を付けるのであれば、“別部品と干渉しない角度で勾配を設定しなければならない”ということになります。
このように抜き勾配は、製品を金型からスムーズに取り出すために必要なものであり、抜き勾配がないと傷や変形といった製品不良の発生につながってしまいます。また、勾配を設定する際は、製品単体だけでなく、周りの部品(別部品)との関係性もしっかりと見極める必要があります。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災をうけ、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.