特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

デジタル時代の製造業、勝ち筋は80%をつかみ取る「人中心」の考えモノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

» 2020年11月02日 11時30分 公開
[三島一孝MONOist]
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デジタル化の中で日本の製造業の生きる道

 2つ目の論点としては「DXの中で日本がどうすべきか」について話し合われた。大宮氏は日本の課題として、2019年版ものづくり白書で指摘された以下の「4つの危機感」について、あらためて考える必要性があると訴えた。

  1. 人材の量的不足に加え、質的な抜本変化に対応できていない恐れ
  2. 従来「強み」と考えてきたものが、成長や変革の足かせになる恐れ
  3. 大きな変革期の本質的なインパクトを経営者が認識できていない恐れ
  4. 非連続的な変革が必要であることを経営者が認識できていない恐れ

 さらに「データ」がさまざまなビジネスの中心となる中で「データ保護主義」への懸念を示した。「国際間流通データが急速に拡大する中、データ保護法を立てる国や地域が増加している。データ取引に関するWTO協定は現時点では存在していない中で、日本としてもどういうスタンスが必要かを考えなければならない」と大宮氏は語っている。また、その参考として、欧州では欧州委員会を中心にデータ利活用促進のため「統一データベース」を構築する動きを示していることが紹介された。

 齊藤氏は日本の課題として「発想の転換」の重要性を訴える。「UX中心の世界ではエンドユーザーにどういう価値をもたらせるかが最重要である。エンドユーザーに対しこういう価値を実現したいので、こういうシステムでこういうアーキテクチャを採用し、こういうデータの使い方にしようというように、逆から見る視点が必要となる。従来のプロダクトアウト型の視点だとどうしてもモノが中心になるが、UX中心であれば、社会や生活を中心に『こういう社会にしたい』ということから、その中のどの部分をどのように担うのかという発想になる。そのためには発想や組織など全て転換することが必要になる。トランスフォーメーションが必要で、誰かが責任を持って踏み出さなければ難しい」と齊藤氏は語る。

 また、人材の問題も訴える。「サービスの在り方を考えて、ユーザー価値をデジタルでつないで実現しながら提供できるドメインエキスパートが必要になる。システム的な視点で全体を捉えてエコシステムのスキームを作るものだ」と齊藤氏は訴えている。

photo 東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者の島田太郎氏

 一方で島田氏は楽観的な見通しを示す。「全く悲観していない。マクロ指標で日本がダメだという話が今は多いが、目標が定まれば何とでもなると考えている。ただ、デジタル化の中では企業やモノベースから、ユーザー体験やユーザー価値ベースに戻していかなければならないのは明らかだ。これに合うサービスを生み出すのが難しいと考える人も多いかもしれないが、実はこれは簡単なことだ。自分が不便だと感じた時に、最適なUXを思い付けばよい。これを形にしていくことだ。その時に重要になるのは『形にするツール』がとても簡単であることだ。こうしたことを証明する挑戦の1つとして東芝ではifLinkという取り組みをしている」と島田氏は述べる。

 東芝のifLinkは、専用のスマートフォンアプリなどを通じて、機器やセンサーモジュール同士を連携するIoTサービスが構築できるというプラットフォームだ。IF-THEN型の設定を行うだけで、IoT連携を簡単に行えるようにした点が特徴である。

 島田氏は「欧州は新しい世界におけるデジュール標準を取る考えで、ドイツが協力を要請しているのもそのためだ。個人的な感覚ではデジュールを取るためにはGDPで20%くらいないと難しい。つまり、デジュールで勝てるのはEUか中国、米国しかない。日本発ではどんなに素晴らしいものでもデジュールで勝つのは無理だ。その時に日本はどうするのかを考えると、オープン化でデファクト標準を取っていくしかない。そういう意味でもオープン化が何よりも重要だ。その時に競争力につながる部分はオープン化する必要性はなく、コモディティ化したものをオープン化するだけでよい。オープン化することで活用の場が大きく広がれば、それだけで新しいステージが見えてくる」とオープン化の重要性を訴えた。

データ社会で日本ならではの生きる道

 最後にそれぞれの立場で日本の製造業へのエールを送った。齊藤氏は「保護主義が強まる中で、日本の持つ『公の精神』が世界に貢献するときが来たと感じている。データの扱いについても、欧州は個人、米国は企業、中国は国など、国や地域によってデータ主権のようなものの考え方が異なっている。その中で日本はちょうどこれらの中央にある。『公の精神』で社会にあった新しいデータの使い方を訴えることができると考えている」と述べた。

photo RRI会長で三菱重工 相談役の大宮英明氏

 島田氏は「第4次産業革命などの議論の中で『まだ頑張れる』や『まだ勝てる領域がある』という話がよく出るわけだが、これからが本番の市場の中でなぜ守りの後ろ向きな姿勢なのかという点に常々疑問があった。こうしたマインドセットをまず変えないといけない。データ1.0の時代は企業がデータを独占してきた時代だった。しかし、これはデータのトラステッドフレームワークの考えからするとおかしいことだ。現在、企業中心のデータ社会が行き詰まりを見せているのは、不安だからだ。この不安を取り除くためにはデータが誰のものかをはっきりさせる必要がある。企業中心から個人中心に戻し、データがどう使われているのかを見えるようにする。気に入らなければ消すことができる世界を作る。そういうことができれば、スケールフリーネットワークでつながる世界はもっと広がる」と語った。

 大宮氏はRRI会長の立場として「RRIは設立5年目を迎えたが、日本文化の良さを生かした取り組みがまだまだできることが分かった。集中と選択の理屈だけでない、捨てない文化も大切で、それを含めて元気をもらった。これらを踏まえて、RRIは黒子として、次の日本を示す道しるべとしての役割も今後も果たしていく」と抱負を述べ、議論を終えた。

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