講演の後半では、こうした視点を踏まえたDXへの取り組みとして、4つの海外先進事例を紹介した。
1つ目の事例は、ビール醸造大手のCarlsberg Group(カールスバーグ)だ。カールスバーグは“ファクトリーIoT”をミッションに掲げ、世界25の工場でプロジェクトを展開。世界中に点在する工場設備の稼働状況をリアルタイムで把握できる環境を構築し、社内だけでなく、自宅などの社外からもリモートアクセスして工場監視、コントロールを行えるようにした。この環境のおかげで、コロナ禍においても安定稼働を実現できたという。
PTCでは、工場におけるデジタルツイン/デジタルスレッドの全体像として、リアルタイムの状況をモニターし、さまざまな措置を現場ですぐに対応する「Actionable IIoT」と呼ばれるレイヤーと、蓄積されたデータをAIなどで分析し、中長期的な業務改善を促す「Analytical IIoT」と呼ばれるレイヤーにわけて、ソリューション提案を行っているという。
「Actionable IIoTの領域(工場の現場)では、PLCやSCADAなどの情報をリアルタイムに可視化、表示してデジタルワークに生かす。また、設備機器、デジタルツインの機能を用いて、ARでデジタルワークをサポートするといったことが行われる。そして、Analytical IIoTの領域では、ERP、MES、PLMなどの基幹システムと連携し、デジタルスレッドを実現することで、大きな視点での業務改善につなげていく」(桑原氏)
欧州の自動車メーカーであるSKODA(シュコダ)は、ARとIIoTを活用することで、メンテナンスエコシステムを構築。工場のデジタル化を徹底的に追求し、生産の高速化と品質向上を実現し、生産効率を高めることに成功した。プレス工場と溶接工場の稼働監視をThingWorxで実現し、プレスライン要素の調査や部品チェックなどを、プレスラインの3Dモデルを活用したデジタルツインで実現している。さらに、3Dスキャナーによる品質検査、3Dプリンタの活用にも取り組んでいるという。
「この事例のポイントは、スマートメンテナンスシステムを実現したことだ。このシステムにより、プレスラインの24時間365日の稼働監視が可能となり、スタッフが携帯するiPadを用いて、いつでもARによるライン監視や情報収集が行えるようになった。工場内の全てのデータを自動収集し、単一のシステムに取り込むことで、生産/工場全体の可視化を実現している」(桑原氏)
空調器機メーカーのVaillant Group(ヴァイラント)は、これまで設計データの受け渡しに「Excel」を活用し、設計完了までのデータ管理などを全て人手によるマニュアル作業で行っていたという。そのため、製品の市場投入期間の長期化や多くの手戻りが発生し、ビジネスにマイナスの影響を与えていた。この問題を改善するため、PLMを活用したデジタルスレッドを確立すべく、段階的にデータ活用、データ管理を推進。DXの取り組みを加速させている。
「ヴァイラントでは、実際の製品のIoTデータを設計にフィードバックし、故障の予測や新製品、あるいは既存製品の最適化に役立てることを進めている。また、デジタルデータを最大限活用するという観点から、サービス部門にARを活用した作業指示を行うことで作業の改善につなげたり、デジタルツインを活用した業務改革を検討したりしている」(桑原氏)
そして、最後の事例は米国海軍だ。米国海軍は、DXのバックボーンとしてPTCのWindchill SaaSソリューションを採用し、海軍の兵器システムの構成情報を管理する仕組みを構築。各関連企業とのコラボレーションを拡充しながら、従来システムの廃止を進め、全ての情報を効率的に連携することで、情報品質の向上を実現したという。
講演の最後、桑原氏は「今回のイベントでは、ここまで紹介してきた海外事例だけでなく、国内事例も多数紹介している。また、パートナーソリューションの紹介や数多くの分科会、展示ブースもあるので、併せてご覧いただきたい」と述べ、講演を締めくくった。「PTC Virtual DX Forum Japan 2020」の会期は、2020年8月20日〜9月25日までとなっている(詳細はこちら)。
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