トラックの自動運転化にも同様の難しさがあります。いつの日か全てのトラックが自動運転になることは間違いないでしょう。しかし、その変化が生じる時期を正確に予測することは誰にもできません。
日本政府は、後続車の有人隊列走行を2021年度までに商業化、無人隊列走行を2025年以降に商業化するとの目標を掲げています。政府の計画通りに進めば、高速道路の主要なインターチェンジには隊列走行されてきたトラックを待つドライバーのための待機所が整備され、トラックとドライバーをマッチングする新しいビジネスが出現するでしょう。完全自動運転が実現したとしても、その範囲が高速道路に限定されるのであれば、トラックとドライバーをマッチングすることの必要性はいささかも損なわれません。無人走行されてきたトラックを誰かが運転しなければならないからです。
では、一般道路でも完全自動運転が可能となったとき、このマッチングビジネスの市場性はどうなるでしょうか。あらゆる道路でトラックが勝手に動くのであれば、ドライバーとのマッチングは不要となります。すなわち、このインターチェンジを接点としたマッチングビジネスは、後続車無人隊列走行が商業化されてから一般道路での完全自動運転が実現するまでの過渡期がターゲットになります。その期間を長いと見るか、短いと見るかによって、潜在的な市場規模も、十分な競争力を確保するために必要な投資額も変わってくるわけです。
物流センターのロボティクス化に関していえば、倉庫ロボットや無人フォークリフトといった「人を必要としない機械・システム」の実用化・普及時期をいつ頃と考えるかどうかで投資の方向性が変わります。投資対効果を得られるようになるまでにはまだ時間がかかると判断するのなら、パワードスーツ、ウェアラブルシステム、追従運搬ロボットといった「人の作業を支援する機械・システム」の導入を検討すべきでしょう。
その判断は、対象とする荷物や作業プロセス、入出荷量、施設規模などによって変わります。「箱に入っている商品のピッキング作業」「ピーク時の入出荷量は平常時の2倍以下」「区画面積は2000m2以上」「作業員数は100人以上」「作業員の時給は1000円以上」「今後5年以上の継続利用を想定」といった条件を広く満たせば、今すぐに「人を必要としない機械・システム」を導入しても相応の投資対効果を見込めます。その反対もまたしかりで、機械・システムに代替させにくい荷物・作業も存在します。「人を必要としない物流センター」が徐々に増えていくのかもしれませんが、1つの物流センターの中で、「人を必要としない機械・システム」と、「人の作業を支援する機械・システム」と、「人」が併存し、その割合が少しずつ変化していくような展開も想定しておいた方がよさそうです。
さて、次回は、1年にわたって続けさせていただいた本連載の最終回になります。本連載では、サプライチェーンの新潮流をテーマに、さまざまな先進事例を取り上げてきました。その多くは、「誰も分からない未来」に挑戦する取り組みだったと思います。次回の最終回では、「誰も分からない未来」に歩を進めるに当たっての「世界観を示すことの重要性」を解説します。
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
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