2015年頃から、意思決定の基となるデータを、より正確にリアルタイムに入手できるようになり、また、ロジックによる自動化範囲が広がっている。その変化の原動力としてデジタルの力が大きいと言っても過言ではない。SCMにおいてデジタルの力は大きく分けて2つの変化を起こしている。
1つは、サプライチェーン全体をデジタル化し、自社のサプライチェーンにとどまらず、企業を超えたサプライチェーンの上流から下流までのモノの流れや各機能の状況を、データとして安全かつ一元的に見える化、共有化できるようになったことである。
もう1つは、機械学習に代表されるAI(人工知能)により、人の経験や勘に頼っていた意思決定、オペレーションを、人間と同等またはそれ以上に高い精度で、予測や検知を行うロジック化である。
サプライチェーン全体のデータの共有化とロジック化を効果的に活用することで、変化対応をより強く、早くすることが可能である。
サプライチェーンにおけるデジタル化への取り組みは、製造工程や検査工程の自動化や、物理的なモノの動きをデジタルで可視化といった実行領域が多い。モノづくりにおけるデジタル化は、安定した品質の維持や効率化によるコスト削減といった効果が高く見込まれる。
日本の製造業におけるSCMの業務改革は、より変化対応力を強くするために、販売、生産などの実行領域をつなぐプロセスである計画領域に注目する企業が多くなってきている。計画プロセスはSCMにおいて最も難しく、短/中期的な変化対応力が勝負を決めるため、ビジネス目標と実態との間で適切な意思決定をし続ける必要がある。将来の市況を想定しリスクを読み、限られた資源の中で、実行結果を踏まえた最適な意思決定をするフィードバックサイクルプロセスであり、かつ非定型業務である。それが故に人間系プロセスが多く、属人化しがちな業務である。ここにデジタル技術を活用することにより新たなフィードバックサイクルを作り出せる可能性がある(図2)。
また、サプライチェーン構造の複雑化により、意思決定に必要となるデータは分断され、散在することが多く、他企業はおろか自社企業内のデータを収集するだけでも困難である。裏を返せばデジタルを生かせる領域であり期待も高いが、まだまだ手をつけられていない企業が多い。
計画領域におけるデジタル技術活用は、意思決定の質とスピードを向上させる効果が高く見込まれ、以下の取り組みを実施している企業が多い。
日本の製造業においては、拠点や業務単位で高いレベルのプロセスを持っているにもかかわらず、相互の連携では多くを人の力、Excel、電子メールのバケツリレーに依存していることが多い。まず、計画に必要なデータを自社の拠点や業務領域を超えて「つなぐ」ことを最優先に取り組む必要がある。
このように、現在サプライチェーンのデジタル化は非常に注目されている。しかしながら、日本の製造業においては、思うように取り組みが進んでいないのが実態である。それはなぜだろうか? 次回は、サプライチェーンのデジタル化を阻む日本製造業の課題について紹介する。
宍戸徹哉(ししど てつや) クニエ シニアマネージャー
大手国内システムインテグレーターにてSCM関連システム構築に従事し現職。ハイテク・エレクトロニクス、自動車、ヘルスケア、非鉄金属、建設、化学、製薬業界など、サプライチェーン分野のコンサルティングに従事。
主に、SCM/S&OP業務改革、組織改革、ITを活用した改革構想および導入を担当している。
笹川亮平(ささかわ りょうへい) クニエ マネージングディレクター
ハイテク機器、自動車など組み立て系、プロセス系製造業の企画構想から定着化まで生産管理、在庫管理、需給管理を中心としたSCM/S&OP業務改革、ERP/SCP構想策定および導入コンサルティングに従事している。
編著に「“数"の管理から“利益"の管理へ S&OPで儲かるSCMを創る!」がある。
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