日本製造業のサプライチェーンマネジメントは旧態依然、デジタル化は可能なのか製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(1)(2/3 ページ)

» 2020年06月01日 10時00分 公開

日本の製造業におけるこれまでのSCM取り組みの変遷

 前述のように、SCMはギャップをコントロールし、さまざまな変化対応をしている。特に計画領域におけるギャップのコントロールを過去から振り返ると、デジタル化への期待がより鮮明に見えてくる。

 1990年代後半から2000年代前半は、固定費削減、固定費の変動費化がよく言われており、サプライチェーンに関する狙いは、業務効率化や在庫削減が主であった。業務を効率化させ、人を減らして自動化する、無駄な在庫を削減することで固定費を削減する。その起点として、需要予測をロジックで自動的に行い、人の意思入れはしないということをしていた。ITシステムに対しても、自動的に計算するエンジンを要求することが多かった。

 ITシステムは、指示通りに早く実行することは得意であるが、そのために全てロジック化しなければならない。しかし、実際にはロジックだけで需給調整することが難しく、結果的にロジックだけでは変化に対応できず、人の調整が多く入り、当初狙っていた自動化には至らなかった。

 2000年代後半から、変化対応をロジックによる自動化任せにせず、人の意思決定をより重要視するようになった。また、これまでは数量だけの判断であったが、採算、つまり金額を絡めて判断するようになってきたのもこの頃からである。人が意思決定するための基データが増えてきたともいえる。ITシステムに対しては、ロジックによる自動化ではなく、人の意思決定の結果、どのような結果になるかのシミュレーションを素早く実施できるようにすることや、数量だけではなく、金額で評価できるようにすることを要求するようになっている(SCP/S&OPツール)。

 ただし、そのようなSCP/S&OPツールを導入せず、Excelなどの表計算ソフトを使っている日本企業が多いのが実態である。結果として、意思決定に必要なデータはサイロ化され、十分に生かしきれておらず、旧態以前としたプロセスのまま残っているのがSCMの実情なのである。

SCMは急速に複雑化している

 多様化する顧客ニーズへの対応や不確実性が高まる環境において、グローバルで供給を確かなものとし、企業競争に打ち勝つためにSCMは急速に複雑化しているといえる。

 SCMの複雑さは、大きく分けて7つの要素から構成される。

  • 戦略:新たな市場への進出や新ビジネスモデル、リスク分散への対応
  • サプライチェーン構造:商品数や製造/販売拠点数、輸配送ルート数
  • 業務プロセス:高品質/効率/柔軟性を実現する各業務プロセス
  • 外部パートナー:サプライヤー、物流業者数、販売チャネル数
  • 組織:サプライチェーンにおける各業務の関連組織数
  • データ:グローバルに分散されたデータ数
  • ITシステム:関連システム数

 SCMの複雑さは、これら各要素の単一の複雑さではなく、それぞれが密接に関係し、1つの要素の変更が他の要素に影響を与えることである。高い競争力を維持するためには、全体を把握した上で高度な運用が求められる。その上、コスト削減や、在庫削減、リードタイム短縮といった課題に立ち向かい、企業競争力を高めていかなければならない。

 複雑なサプライチェーンをコントロールすることは、構造上、非常に難しい問題である。

デジタル化は新しいビジネスを生み、SCMに影響を与える

 デジタル化の波は、SCMにどのような影響を及ぼしているだろうか。デジタル化によりビジネスモデルが変化していく中で、SCMも同様に変化が求められている。

 ビジネスモデルの変化の一つとして製造業のサービス化は、新たな競争力や収益源として期待され、デジタルの後押しもあり加速している。例えば、モノに稼働時間などを検知するセンサーを取り付け、その稼働時間に応じて課金し、加えて収集したデータを基に付加サービスを提供していく、いわゆるサブスクリプションビジネスが増加している。

 製造した製品を「モノ」として提供するだけではなく、「コト」として提供する場合、SCMにおいては大きく分けて2つの影響がある。

 1つは、顧客の手に渡った製品を自社棚卸資産としてコントロールしなければならくなることだ。よって、「モノ」として提供するマネジメントではなく、新しいマネジメントの仕組みを構築する必要がある。

 もう1つは、今まで得られなかったデータを活用できるようにしなければならないことである。例えば、製品の客先における稼働状況が分かれば、必要なサービスパーツなどを事前に準備することができる。これは要求リードタイムが長くなったことを意味し、稼働状況に応じて製造するモデルに変えることで、不必要な在庫の削減も可能となる。

 ビジネスモデルとサプライチェーンは多様化、複雑化していくが、変化に応じてSCMも常に変化していかなければならないものとして捉える必要がある。

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