日本製造業のサプライチェーンマネジメントは旧態依然、デジタル化は可能なのか製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(1)(1/3 ページ)

サプライチェーンにおける業務改革を推進していくために、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第1回は、サプライチェーンのデジタル化への期待について、サプライチェーンマネジメント(SCM)の切り口から紹介する。

» 2020年06月01日 10時00分 公開

日本製造業におけるデジタル化への取り組み現状

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が年々加速するなか、製造業の根幹となるサプライチェーンのデジタル化への注目が高まっている。海外の先進企業では「デジタルサプライチェーンツイン(Digital Supply Chain Twin)」や「デジタルサプライチェーンプランニング(Digital Supply Chain Planning)」といった言葉に代表されるように、サプライチェーンのデジタル化を明確に打ち出し、企業競争力を上げる武器としての取り組みが加速している。一方で日本の製造業に目を向けると、取り組みのスピードは十分とはいえず、必要性は認識しつつも、取り組み自体をまだ実施していない、または限定的な実施、実証段階止まりという企業も多い。

 本連載(全6回)では、読者の皆さまがデジタルというツールを使い、サプライチェーンにおける業務改革を推進していくために、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを主に紹介する。第1回は、サプライチェーンのデジタル化への期待を、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の切り口から紹介する。

SCMは需要/供給ギャップのコントロール(=変化対応)

 SCMは、一言でいえば需要と供給のギャップのコントロールである。「サプライチェーン」という言葉からも、供給側が強く意識されがちであるが、プロセスの起点として需要がある。需要は一定ではなく刻々と変化し、供給との間にギャップが生まれる。そのギャップを解消するための変化対応の一連のプロセスをコントロールすることがSCMである。よって、需要側/供給側の双方向からの“データ”を早く、確実に、相互に伝えることが重要となる。

 SCMは大きく「実行」「計画」「戦略」の3つの領域に分かれる(図1)。

図1 図1 SCMは「実行」「計画」「戦略」の3つの領域に分かれる(クリックで拡大)

 1つ目の「実行」は、サプライヤーから部品を調達し、それを生産に流し、運んで、顧客へ売るという実際にモノの動きを伴う領域である。ギャップを解消する最後の砦となり、調達、生産、物流、販売のコントロールを行う。ただし、実行段階ではギャップを解消するための手段が限られ、対応コストも高くなる場合が多い。納期ギリギリとなり、海上輸送から航空輸送に切り替えるといったことをイメージすると分かりやすいだろう。

 実行段階では、変化対応への打ち手は限られる。よって、直近ではなく、先々のリスク把握、アクションの選択や意思決定が重要になる。

 それが、2つ目の「計画」である。いつ、どこに、どれくらいの需要がありそうか、それに対して、生産や調達をどれくらいにするか、設備投資なども含めてギャップの調整を行う。計画段階でギャップを見据えて打ち手を考えることにより、実行段階における変化対応の選択肢を増やせる。

 業界によって調整の長さは異なり、例えば製薬や自動車であれば数年単位で大きく決め、細かくは数カ月といった長さで行う。家電や消費財であれば、数週、数日といた長さで行う。

 3つ目は「戦略」だ。ビジネス戦略とサプライチェーン戦略は密接に連携しており、ビジネス戦略における競争要素(顧客ニーズへの適合、商品/サービスの魅力、高品質、低コストなど)に対し、サプライチェーンにおいてどのように貢献するかを決定する。主に、顧客へのサービス目標、販売チャネル、高品質/低コストを実現するオペレーションモデル、戦略的パートナー活用、資産配置(製造拠点、倉庫拠点、輸送ルートなど)が要素となる。長期視点でのギャップをコントロールしているといえる。

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