こうした中で大きな成果をもたらした取り組みの1つが、組み立て製造ラインのリアルタイム最適化である。データを活用したシミュレーションにより事前最適化した計画を用意するが、製造現場では「小さな想定外」が数多く発生し、特に人中心の組み立てラインなどでは、計画通りに進まないケースが多い。さまざまな要因で予測のズレが生まれてくるからだ。
富士通テレコムネットワークスでは、CPSによるリアルタイムデータを生かし「少し先の未来」をシミュレーションすることで、数分後や数十分後に人手が足りなくなったり、部材が足りなくなったり、不具合などが増えてきたりする状況などを事前に把握。これらが発生する前に、対策を打つことで、ライン停止を回避、もしくは停止時間を低減することができるようにした。
この取り組みにより、想定外のライン停止の数を大幅に低減することができたという。寺内氏は「2018年に開始し、適用した生産ラインでは、半年間で想定された生産性改善見込みの10倍以上の成果を得ることができた」と成果を強調する。
これらのリアルタイムデータと未来予測に対応するため富士通テレコムネットワークスの工場内では、ラインの脇にコントロールセンターを設置。異常や遅れなどに対しすぐに対応できるようにしているという。
これらの取り組みに加えて、カメラとAIなどを活用し「人から生まれるデータ」を活用する仕組みの構築に現在取り組みを進めているという。作業忘れの検知やトレーサビリティーやトレーニングなどへの活用を進めている。
寺内氏は「例えば、人作業の映像を解析し、熟練作業者と経験の浅い作業者の違いを分析すると、作業そのもののスピードではなく、迷っている時間が多いということが分かったケースがある。その場合、初心者でも迷わない作業手法を作ることができれば、それだけで生産性改善につながる。そのケースでは治具などの色を分けることで判断を行いやすくした。デジタル技術により『思考の可視化』を行い、それを現場の改善につなげていく」と述べている。
富士通テレコムネットワークスでは工場内のさまざまな部分でCPSおよびデジタル技術の活用を推進しているが、これらの取り組みにより、組み立ておよび試験ラインの生産性は50%以上改善したという。また、工程内の仕掛かり在庫も33%減少させることに成功したという。
スマート工場化に向けて多くの製造業が取り組みを進めているもののなかなか成果が出せないところも多いが、ポイントとして寺内氏は「振り返ると既存の仕組みをうまく生かしながら、スモールスタートで取り組んできたということが重要だったと感じている。新しいシステムやツールを大きな投資で一気に導入するというのは日本の工場では現実的ではない。小さなものをコツコツと積み上げて、それを結び付けていったことが今考えるとよかった」と語っている。
今後に向けては先述した人作業の分析などでAIエッジコンピューティングの活用を強化する他、ローカル5Gの活用にも取り組む方針である。「実際に端末がいつ出るか、周波数がどうなるか含めてまだ見えないところも多いので、2019年中にまずはLTEでレディ状態まで持っていく。体制を構築していつでも5Gに切り替えられるようにする」(寺内氏)。5Gは大容量、低遅延、多接続などの特徴があるが「工場でどういう機能や性能が生きるのかをさまざまな面から検証していきたい。低遅延なども注目されているが、安全にかかわる領域では使わない。それ以外の領域では使っていきたい。工程不良の把握や人作業の把握など適用できる領域は広いと考えている」と寺内氏は述べている。
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