これまで解説してきたグローバルSCRMを品質不正への対応に当てはめた場合、企業として具体的にどのような対策を取るべきでしょうか。品質不正を例にとって、グローバルSCRMを実現する場合、図2のようなステップで検討を行うことを推奨します。
最初のステップとしては、自社の製品、業務においてどのような品質不正事象が発生しうるかを想定することです。製造業において、自社で品質不正が発生することを想定するのは抵抗が大きいかもしれませんが、他社の品質不正事例を参考に自社でも起こりうる事象を設定します。
例えば「検査工程でのデータ不正が発生した」「従業員が不正の認識なく勝手に仕様を変更していた」等、一定の想定を置くことで後続ステップである「2. 想定シナリオ発生時の脆弱性分析(リスク分析)」や「3. サプライチェーン強化対策検討」を行うためのインプット情報となります。この場合、蓋然性に固執することはなく、発生した場合の影響が大きいと考えられる事象に絞り、公表されている情報や過去実績等から抽出するレベルで構いません。
次のステップとしては、前項の事象が発生した場合の影響を「調達」「生産」「物流」「販売」等のサプライチェーン機能別に想定し、サプライチェーン上の脆弱性を可視化することです。
「ヒト、カネ、情報、権利等の目に見えないもの」も考慮し、特に「人の手を介している工程」がどこにあるのかに着目することが重要です。また、単なる定性的な分析だけでなく、具体的な影響金額や生産計画の見直し等定量的かつ具体的な分析も行うことが重要です。
次のステップは特定した脆弱性を解消するための対策検討です。サプライチェーンの脆弱性に対する対策には、下記のようにいくつかのカテゴリーが存在します。
特に「事業スキームのシンプル化」について検討することは、手間と時間はかかるかもしれませんが有効な対策となるケースがあります。そもそも複雑化してしまったサプライチェーンこそが、納期に間に合わず不正をしてしまうことや、緊急時の現状把握を遅らせ、復旧の難易度を上げているという側面もあります。サプライチェーンそのものの合理化、効率化を進めることは、リスク管理上の目的にも適う一案となります。
また、上述の1〜3に加えて、具体的な品質不正を想定したシナリオを基に事前準備を行い、関係者間でワークショップ形式の訓練を行います。このワークショップにより、課題の抽出と計画の見直しを行うことが重要です。ワークショップの進め方のイメージは以下の通りです(図3)。
実際に品質不正の調査や危機対応の経験を踏まえ感じることは、多くの事例において、「品質不正をせざるを得ない状況」に当事者が追い込まれているということです。納期を考えると不正をしないと期日通りに納入できない、営業の観点で不正を公表すると会社が潰れてしまうかもしれない等、私腹を肥やすのではなく会社を守るために不正に手を染めてしまうという事例を目の当たりにしました。
そのような事例を発生させないためにも、営業活動段階やサプライチェーンの構築段階から不正を発生させないような仕組みを構築し、万が一発生した場合にも隠蔽せず二次災害を発生させないような準備を行い真摯に対応することが重要だと考えます。(※危機対応については連載第6回目で解説予定)
土谷 豪(つちや ごう)
KPMGコンサルティング シニアマネジャー
金融系事業会社でリスク管理、危機管理、BCP対応等を経験し、2013年にKPMGビジネスアシュアランス株式会社(現KPMGコンサルティング)入社。企業のリスク管理体制構築や危機管理体制、事業継続計画策定支援のプロジェクト等に多数従事。特に直近では、製造業の品質不正対応の調査業務やグローバル製造業のサプライチェーンリスク管理に関する対応に注力。
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