連載3回目となる今回は、品質不正の予防や品質不正が原因でサプライチェーンを寸断しないために、グローバルサプライチェーンリスクマネジメントという考え方を紹介し、各企業において取るべき施策の検討材料を提供します。
品質不正の発生原因はさまざまなものがありますが、対処療法的な対策に留まっているケースも多く見られます。発生原因として、ガバナンス不全や組織風土の問題が第三者委員会の報告書等でもよく指摘されていますが、根本的な原因としてサプライチェーン自体が無理のある設計になっているケースも存在します。また、品質不正自体がサプライチェーンを寸断する原因になるケースも考えられます。
今回は、品質不正の予防や品質不正が原因でサプライチェーンを寸断しないために、グローバルサプライチェーンリスクマネジメント(以下、グローバルSCRM)という考え方を紹介し、各企業において取るべき施策の検討材料を提供します。
本稿でいう「グローバルSCRM」とは、原材料や部品の調達から、生産、物流、販売に至るまでのサプライチェーンに存在するリスクを特定、評価し、サプライチェーン寸断を回避するために必要な対策を講じることをいいます。自社だけでなくサプライチェーンに関わるあらゆる関係者(サプライヤー、物流会社、海外子会社、販売代理店、委託先等)を対象として考えることが重要です。
特に、海外は日本と比べて考慮すべきリスクが多岐にわたる(関税、移転価格等の税務面や、贈収賄等のリーガル面、地政学的リスク等)ため、海外拠点や海外サプライヤー等も含めた範囲で検討することがポイントとなります。
企業が直面するサプライチェーン寸断をもたらす原因は、自然災害、テロ、調達先の倒産、労働争議の発生、コンプライアンス違反による拠点機能の停止等、さまざまなものが想定されます。多くの製造業では、大震災等のサプライチェーン寸断の対策としてBCP(事業継続計画)を策定していますが、その想定事象として「品質不正」を取り入れている企業はまれでしょう。
例えば、以下の表1に記載するようなケースにおいて、品質不正によるサプライチェーンへの影響が想定されます。
前述の通り、自社に影響を与え得るリスク事象(原因)は、非常に多岐にわたるため、個々の原因に対して想定される「シナリオ」を全て策定することは不可能ですし、多数を想定したとしても費用対効果の面から非効率となります。また、自社だけでなく“サプライチェーン全体”を踏まえたリスクを洗い出す場合、サプライヤーの状況、ISO等の認証取得状況、輸出入、関税等、検討範囲が広範かつ、具体的なシナリオが必要となります。
そこで、筆者が推奨するのが「サプライチェーンベース」のアプローチ方法です。すべての原因事象を洗い出すことに拘泥することなく、一定の蓋然性があるシナリオをベースとし、サプライチェーンの機能やリソース(生産、調達、物流、システム等)を着目し、それらのうちサプライチェーンが寸断される可能性のある直接的な脆弱性を分析するアプローチをいいます。(図1)。
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