MTM法は、H.B.メイナード(Harold Bright Maynard)などによって、ウエスティングハウス・エレクトリックの工場のドリルプレス作業で最初に研究が始められて、その後に体系化された手法で、その基礎的な考え方は、WF法とほぼ同じです。WF法は、身体部位別の分類を基本としていますが、MTM法は動作の性質別の分類を基本としています。この点で、MTM法の方がサーブリック(Therblig)に近く、WF法は全ての動作を4つの主要変数で分類していますが、MTM法は動作のおのおの性質に対して分類方法が異なります。
本手法による動作分析手順は、分析対象の作業をMTM法で規定した基本要素に分解します。次に、既に作成されている時間表より、各基本要素に対する時間値を求めて、これを集計していきます。
ただし、MTM法の特徴は、動作の分析単位がWF法よりも少し大まかであること、時間値の単位が“1/100,000h”となっていること、作業ペースが常庸給(WF法は、奨励給が基準)を基準にして設定されていることなどです。手法の用途などはWF法と変わりありません。WF法との主な相違点は以下の通りです。
具体的なMTM法の基本動作は、次のように分類されます。
(1)手をのばす(R;Reach)
目的物や、ある位置までの手または指を移動させることを目的とする基本動作です。手を伸ばす動作は、移動距離、動作の種類(目的物または目的場所の状態)、動作の速さの状況などの変動因子によって左右されます。
(2)運ぶ/動かす(M;Move)
目的とする位置に対象物を移動させることを目的とする基本動作です。運ぶ動作の時間値は、移動距離、動作の種類、動作の速さの状況、対象物の重量または抵抗などの変動因子によって左右されます。
(3)クランク運動(C;Crank Motion)
対象物を円運動させるために、肘を中心として前腕や手を回転させる動作です。クランク運動の時間値は、回転運動の直径、運動時の抵抗、動作の速さの状況などの変動因子によって左右されます。
(4)回す(T;Turn)
前腕の長手方向の中心線を軸とする手、手首および前腕の回転動作の時間値は、回転角度、重量、抵抗などの変動因子によって左右されます。
(5)押す/力を入れる(AP;Apply Pressure)
抵抗に逆らって加えられる付加的な力をいいます。押す動作は、“強く押す”“弱く押す”の2種類に分類されます。
(6)つかむ(G;Grasp)
次に続く基本動作に備えて、指または手で1つまたはそれ以上の対象物を十分にコントロールすることを主目的とする基本動作をいいます。
(7)定置する/組立(P;Position)
対象物を別の物体に、軸合わせ、索合、挿入するとき、動作が微細であって、他の基本要素に当てはめられない場合に用いられる基本動作をいいます。この動作の時間値は、はめあいの度合い、対称性、取扱いの難易度などの因子により左右されます。
(8)ひきはなす/分解(D;Disengage)
対象物を他から引き離すために行う基本動作をいいます。この時間値は、はめあいの度合い、取扱いの難易度などの変動因子により左右されます。
(9)放す(RL;Release)
指または手で行っている対象物のコントロールを解除する基本動作をいいます。
MTM法の動作時間表の例を表3に示しておきました。この表は、“R(手を伸ばす)”の時間表の例ですが、この表に沿って動作分析結果から動作時間を求めます。
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PTS法は、標準時間の設定法の一つですが、その過程として合理的な動作手順の設計を行うことから、作業改善においても効果的に活用することができます。
例えば、WF法で設定された標準時間と標準手順を実際の作業と比較することで、現状の作業方法の改善点を多く見つけ出すことができます。さらに、最適な動作設計技術や動作内容と所要時間の関係などを身に付けておけば、モーションマインド(Motionmind)に優れた改善技術者として成長していくことができます。このような視点を常に心掛けておくことも大切なことです。
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MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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