ストップウォッチがいらない「PTS法」は標準時間による作業改善の原点よくわかる「標準時間」のはなし(10)(1/4 ページ)

日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。第10回は、標準時間の測定結果が主観によって左右されず、ストップウォッチもいらない「既定時間標準法(PTS法)」について説明する。

» 2019年05月28日 11時00分 公開

 標準時間の設定に際して、最も重要なことは「標準時間として設定された時間値は、公平である」ということと、「常に一貫した基準に基づいて、標準時間が設定されている」ということです。作業測定を仕事とする多くの技術者は、そのためにいろいろな方法を考え出しては、測定時間を標準の値にレイティングするために努力してきました。

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 しかし、時間研究は、時間測定をする人もされる人も、多くの人達によって異なる場所や作業条件などのもとで行われ、その結果は必ずしも一貫性があるとはいえず、結局は、測定者の主観によって測定結果が左右されがちでした。このことは、時間研究においては、致命的な欠陥でもありました。このような欠陥を改善するために誕生したのが「既定時間標準法(PTS法; Predetermined Time Standard system)」です。

 PTS法の考え方は、F.B.ギルブレス(Frank Bunker Gilbreth)の動作研究に源を発しています。「人の作業は、基本的な幾つかの最小動作のつながりで構成されているので、これらの基本的な動作に対して標準となる1単位の時間値をあらかじめ決めておけば、後にこれらの最小動作のつながり方を調べれば人の作業動作時間は決定できる」という考え方です。この方法によれば、ストップウォッチを使用して実際の作業時間を測定することなく、動作分析を行っただけで、その仕事に対する作業時間を決定することができます。

 また、この方法によって、作業を基本動作に分解して、各動作の時間を測定し、これを分析して各作業の標準時間を決定する“時間研究”と、一定の作業における動作を観察、記録、分析して、無駄のない効率の高い作業動作を求める“動作研究”を同時に行うことができます。このため、標準時間(ST;Standard Time)の設定の他、改善のための分析手法としても効果的です。

1.PTS法の特徴と種類

 PTS法は、人の行う作業について適用され、その作業を遂行するために必要な時間を合理的に見積もる方法です。具体的には、作業内容を基本動作に分解して、その動作の性質と条件に応じてあらかじめ定められた時間値を当てはめることで、いろいろな作業について公平で客観的な標準時間を得ることができます。PTS法には、一般的に次のような特徴があります。また、現在知られているPTS法には種々ありますが、その主なものを表1に示しました。

1.1 PTS法の特徴

 PTS法は、従来のストップウォッチによる直接時間観測法の欠点を補うための手法として登場したもので、次のような特徴があります。

  • レベリング、レイティングなどの作業の格付けをする必要がありません。そのため、作業の格付けに対する不満を取り除くことができます
  • 作業の所要時間値よりも作業方法に意識を集中させることができるため、現在の作業方法を詳細に認識することができます
  • 動作の分析が定量的に行われるため、改善の重点が把握されやすくなります
  • 作業方法を正確に把握することができますので、作業前に、より良い作業方法の合理的選定をすることができます
  • 各職場に一貫した作業標準を作ることが容易になり、客観的、かつ合理的な標準時間や作業標準書を設定することができます
  • この手法は、機械や装置によってコントロールされる作業には利用できません
  • 分析に手数がかかるために、長時間を要する作業には不向きです
  • 正確な分析には、専門的な訓練と経験を必要とします

1.2 PTS法の種類

表1 表1 PTS法の種類(クリックで拡大)

 上記の表1に挙げた他にも、基本動作の決め方や動作時間の単位、基本資料の範囲などにより、それぞれの企業独自に運用しているものがたくさんありますが、WF法とMTM法は最も多く用いられていて広く普及しています。以下に、これら2つの方法について、その概要を説明していきます。

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