早稲田大学と北九州市立大学は、微細加工技術を用いて、金属製ナノ加工穿刺薄膜を開発した。この薄膜を細胞に挿入して、細胞内へ物質を効率良く導入することに成功した。
早稲田大学は2019年5月7日、微細加工技術を用いて、金属製ナノ加工穿刺薄膜を開発したと発表した。この薄膜を細胞に挿入し、ナノ管を通して細胞内へと物質を効率良く導入することに成功した。同大学大学院情報生産システム研究科 准教授の三宅丈雄氏と、北九州市立大学の共同研究グループによる成果だ。
今回の研究で用いた微細加工技術は、無電解メッキとエッチング技術を融合したものだ。ポリカーボネートの膜に無電解金メッキを施した後、ウェットドライ加工でナノ加工穿刺薄膜を作成する。作成したナノ菅のサイズは、外径600nm、内径400nm、高さが数mm〜数十mmほどだ。
作成した薄膜をマウス由来の線維芽細胞に1分間押印し、calcein(カルセイン)の導入効率と細胞生存率を評価したところ、85.7%の効率でcalcein色素が細胞に導入されていた。押印後の細胞生存率は94%だった。また、細胞をヒト由来の上皮細胞に変更した場合も、同等の性能を発揮することが確認できた。
さらに、導入色素をFluorescein蛍光色素が標識されたオリゴDNAにした場合は、導入効率83%、細胞生存率90.3%という結果が得られた。
同技術は、ナノ管を細胞に直接挿入できることから、細胞膜の形態変化によって細胞内に物質を取り込むエンドサイトーシスを介さずに、細胞内にアクセスできる。また、一度の押印で多くの細胞に大きさや形状、電荷などが異なる物質を導入できる上、導入効率が高く、導入のタイミングを調節することも可能だ。
細胞に物質を容易に導入できるため、細胞の未知の機能を探る有効な手段となり、細胞内の機能を制御する新たなツールになり得る。今後、細胞に関する基礎研究が進むことで、再生医療や創薬などの研究へと展開することが期待される。
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