京都大学は、マイクロ流体デバイスとナノファイバーの技術を統合したデバイスを開発し、1枚のプレート上に多様な細胞環境を再現することに成功した。また、多様なサンプルの中から、細胞にとって最適な環境を効率的に同定する方法も開発した。
京都大学は2017年3月17日、生体内に近い環境をつくれるマイクロ流体デバイスとナノファイバーの技術を統合し、多種類の細胞環境を集積したデバイスを開発したと発表した。同大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の陳勇特定拠点教授、亀井謙一郎特定准教授、東京工業大学の眞下泰正助教らの研究グループによるもので、成果は同月8日に独科学誌「Small」で公開された。
マイクロ流体デバイスとナノファイバーは、細胞外環境を構成する「細胞間相互作用」や「細胞足場」などを微細なスケールでつくり出せるが、独自技術として別々に開発されていた。今回の研究では、この2つの技術と利点を融合し、多様な細胞環境を1枚のプレート上に創出することに成功した。
開発されたハイブリッドデバイス「MACMEアレイ(Multiplex Artificial Cellular MicroEnvironment array)」では、1つのアレイに48個のマイクロ流路(細胞培養チャンバ)を設置している。そして、マイクロ流路による細胞の空間/密度制御機構と、ナノファイバーによる材料や密度などの異なる細胞足場を組み合わせて搭載した。また、細胞培養実験で一般的に用いられる96ウェルプレートに準拠した設計となっているため、同デバイスを用いる実験に特別な機械や技術は必要ない。
同研究ではさらに、同一プレート上に再現した多様な細胞環境の中から、目的の細胞機能を発揮するものを見つける方法も開発した。これは、細胞を蛍光顕微鏡観察して得られた画像を用いて画像処理/統計処理し、細胞表現型を決定するというものだ。今回、この手法でヒトES細胞が未分化を維持したまま増殖するのに最も適している細胞外環境を見いだした。
この成果により、ヒトES/iPS細胞から機能的な組織を作製するために最適な環境/条件を、効率良く探し出せるようになった。今後、創薬や再生医療の発展につながることが期待される。
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