東京理科大学は、マウスを用いた実験で、他者の痛みが伝わる一因が、痛み刺激による発声音にあることを明らかにした。感情的な痛み伝達のメカニズム解明に向けた新たな知見となる。
東京理科大学は2025年7月18日、マウスを用いた実験で、他者の痛みが伝わる一因が、痛み刺激による発声音にあることを明らかにした。痛み刺激による発声が、物理的な刺激を受けていない個体にも感覚過敏や脳内炎症を引き起こすことを確認したもので、感情的な痛み伝達のメカニズム解明に向けた新たな知見となる。
ヒトを含め、動物は痛みを感覚として受け取るだけでなく、心理的な影響によっても痛みを感じることが知られている。その中の「感情伝達」と呼ばれる現象では、自身が直接刺激を受けていなくても、他者の痛みの様子に反応して痛みを感じることがある。今回の研究では、この痛みの感情伝達の要因の1つである音に着目し、マウスがコミュニケーションに使用する超音波領域の発声音が、感情伝達を媒介する可能性を検証した。
実験では、物理的な痛みを与えたマウスの鳴き声から超音波部分のみを抽出してサウンドストレスを作製し、それを別のマウスに4時間聞かせた。その結果、音を聞かせたマウスは痛覚が過敏になり、視床では炎症に関わる遺伝子の発現が上昇していた。
サウンドストレスで炎症反応を起こしたマウスにロキソプロフェンなどの鎮痛薬を投与すると、過敏症状は改善した。一方で、既に人為的に炎症を起こしたマウスに同様の音を聞かせた場合は、痛みの回復が遅れ、鎮痛薬の効果が低下することが確認された。
実験結果から、超音波領域の「音ストレス」が脳内炎症を誘発し、痛覚過敏や疼痛の悪化を引き起こすことが明らかとなった。研究グループは今後、感情的なストレス性の痛みの理解、音による環境刺激の低減などについてさらに研究を進め、痛みの制御や新たな治療法の開発につなげていく。
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