東京大学は、細胞と同様の柔らかさを持つナノメッシュを電極としたセンサーを開発した。これをヒトiPS細胞由来心筋細胞シートにじかに接触させ、拍動を阻害せずに、表面電位を長時間安定して計測した。
東京大学は2019年1月4日、細胞と同様の柔らかさを持つナノメッシュを電極としたセンサーを開発したと発表した。また、これをヒトiPS細胞由来心筋細胞シートにじかに接触させ、拍動を阻害せずに、表面電位を長時間安定して計測することに成功した。同大学大学院工学系研究科 教授の染谷隆夫氏らが、東京女子医科大学、理化学研究所と共同で研究した。
心筋シートを使って薬物反応を定量的に評価する従来の手法では、ガラスかプラスチック製の培養皿に作製した多点の電極を用いて、心筋シートを培養皿に固定して表面電位を計測する。この場合、本来ダイナミックに拍動する心筋細胞の運動が制限されていた。しかし、柔らかさと耐久性を兼ね備えた薄型センサーは実現困難で、連続して自由に拍動する細胞シートの表面電位を評価できる手法はなかった。
今回、研究グループでは、数層のナノファイバーからなる、ごく薄いナノメッシュセンサーを開発した。心筋シートは通常、わずか数十μmで構成され、数mNほどの弱い力しか発生しないため、デバイスとの接触によるわずかな負荷でも心筋シートの自然な動きに影響を及ぼす。同センサーは、心筋シートと同じくらい柔らかく、心筋シートの細胞から発生する非常に小さな力で自由に変形・伸縮する。
さらに、ナノファイバーをテンプレートとして、100nmの金薄膜を蒸着法で形成し、高い導電性も持たせた。この金薄膜を形成したナノファイバーの周辺を高分子膜でコーティングすることで絶縁性が向上しており、電極間のクロストークも低減した。
このセンサーを拍動する心筋シートに貼り付けて動きを評価したところ、センサーを貼っていない心筋シートと同等に伸縮し、拍動が阻害されないことが確認できた。また、拍動を継続した状態で、心筋シートの表面電位を96時間連続で安定して計測できた。
ナノメッシュセンサーは、高い液透過性を持ち、センサーが心筋シートに接触している状態でも培養液からの栄養分や薬の成分を心筋シートに供給できる。実験では、心筋シートの拍動数に影響を与える薬の投薬前後で、心筋シートの拍動間隔が変化することを確認できた。
このことにより、実際に近い模擬環境で薬物反応を評価可能になるため、新薬の心臓への副作用を定量的に評価する手法として活用できる。再生医療の分野では、ES/iPS細胞から作った心筋細胞・組織の成熟度を定量的に評価する手法として活用が期待される。
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