理化学研究所は、ガラス製マイクロ流体チップの厚さを変えることで、音波を効率よく届け、従来のマイクロ流体チップでは難しい数μm以下の粒子を流路の中央に集めることに成功した。
理化学研究所(理研)は2019年2月20日、ガラス製マイクロ流体チップの厚さを変えることで、音波を効率よく届け、従来のマイクロ流体チップでは難しい数μm以下の粒子を流路の中央に集めることに成功したと発表した。理研 生命機能科学研究センターの田中陽氏らの共同研究グループによる成果だ。
水中に分散した微粒子をマイクロ流路に流し、それに音波をかけると、微粒子が音波のエネルギーを受け、流路中央に直線状に整列する現象が見られる。この現象を利用し、動物細胞など約10μm以上の微粒子を操作する「音響絞り込み」という方法が実用化されている。しかし、小さい微粒子は音波のエネルギーを受け取りにくいため、数μm以下の微粒子についての操作は困難だった。これまで、マイクロ流体チップそのものの形状の、音響絞り込みへの影響するについては検討されていなかった。
同研究グループは、薄板ガラス製のマイクロ流体チップを用いることで、より小さな微粒子に音響絞り込みが適応できるか研究を進めた。まず、ガラス基板に対してフッ化水素を用いたエッチングを行い、表面に幅120μm、深さ35μmの直線流路を形成し、その上にガラスを貼り合わせて、厚さ2.8mm以下の数種類のマイクロ流体チップを作製した。
水中に分散させた直径2μmのポリスチレン粒子をそれぞれの流路に流し入れ、圧電素子に電圧をかけて音波を発生させ、ガラスチップの厚みと音波の強度が音響絞り込みに与える影響を調べた。その結果、同じ音波強度の場合、ガラスチップの厚さが薄いほど微粒子に対する音響絞り込みの効果が高くなることが分かった。しかし、厚さが0.4mm以下になると、音響絞り込み効果の改善はさほど大きくなく、0.1mm以下のガラスチップは音波の衝撃で破損しやすくなった。
次に、厚さ0.4mmのガラスチップに、直径0.5μm、0.1μm、2μm、6μm、10μmのポリスチレン粒子を流し入れ、粒子直径ごとの音響絞り込みの効果を比較。その結果、全ての粒子径で、安定した音響絞り込みの効果が見られた。一方、2.1mm厚のガラスチップでは、粒子径が小さくなるにつれ音響絞り込みの効果は弱くなり、特に1μm以下の粒子では音響絞り込みが確認されなかった。
さらに、大きさが1μm程度の不規則な形をした大腸菌を厚さ0.4mmのガラスチップに流し入れたところ、音響絞り込みによって流路の中央に集められた。また、音響絞り込みにより、水中に分散させた2〜10μmのポリスチレン粒子を流路の中央に集めた後、余分な水分を排出することで、濃縮できた。
以上の技術を高解像度のカメラを応用した検出器と組み合わせれば、微粒子の検査における精度の向上や、微粒子を含む工業製品や医薬品の品質管理の高効率化が期待できる。さらに、微生物の収束や粒子濃縮にも応用できるため、動物細胞より小さい微生物や細胞小器官などの微小構造体の濃縮や解析への応用も期待できるという。
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