理化学研究所は、フェムト秒レーザーを用いてマイクロ流体素子内部へ自在に金属配線を施すレーザー加工技術を開発した。この技術を用いて、ミドリムシの運動方向を3次元に制御することに成功した。
理化学研究所は2017年2月28日、フェムト秒レーザー(1フェムト秒は10-15秒)を用いて、マイクロ流体素子内部へ自在に金属配線を施すレーザー加工技術を開発したと発表した。同技術で作製したバイオチップ「エレクトロフルイディクス」の閉空間内で、ミドリムシの運動方向を3次元に制御することに成功した。同研究所光量子工学研究領域の杉岡幸次ユニットリーダーらの研究チームによるもので、成果は同月27日、国際科学誌「Microsystems & Nanoengineering」に掲載された。
同研究チームは、マイクロ流体デバイス内の電界方向を時間的かつ空間的に制御することで、電気的に微生物の運動方向を制御する方法を考案した。まず、超短パルスかつ高強度のフェムト秒レーザーでガラスマイクロチップ内部に3次元マイクロ流体構造を構築した。続いて、フェムト秒レーザーで流体構造内部を選択的にアブレーション(固体の表面がプラズマ化し、原子、分子、クラスタが蒸発して表面が削り取られる現象)した後、無電解メッキを施した。その結果、アブレーション領域にのみ金属薄膜を堆積させることで、流体構造内部からガラスマイクロチップの外部に自在に金属配線を施すことに成功した。
この技術を用いて、ガラス基板内部に十字路形状のマイクロチャネルを形成し、その底面に対向する4つの電極を配置し、ガラス基板表面まで配線したエレクトロフルイディクスを作製した。4つの電極間で加える交流電圧の組み合わせを変えると、チャネル内の電界方向を制御できる。チャネル内にミドリムシを入れて観察したところ、制御した電界方向に沿ってミドリムシの運動方向を2次元に自在に制御できた。
さらに、マイクロチャネルの底面と天井面にロの字型の電極を配置し、垂直軸に対して平行方向にも交流電界を生じさせられるエレクトロフルイディクスを作製。これによって、ミドリムシの運動を垂直軸方向も含めた3次元に制御することに成功した。ミドリムシはほとんどの時間、地面に対して平行方向への前進運動しか行わないため、鞭毛の回転運動をミドリムシの前方から観察することは困難だったが、これを用いることで容易に観察できるようになった。
同技術を用いることで、微生物や生細胞の微小な部位や高速運動する部位を効率的かつ詳細に観察でき、今後、微生物や生細胞の動態・機能の解明への応用が期待できるとしている。また、電気化学バイオセンサーなどのエレクトロフルイディクス作製への応用も期待できるという。
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