ところで米国の場合、ONCの医療IT認証基準をクリアしたベンダー製品は、医薬品・医療機器の臨床研究やリアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)と密接に関係している。
米国食品医薬品局(FDA)は、2018年7月18日、「臨床研究における電子健康記録データの利用 - 産業界のためのガイダンス」(関連情報)を公表している。この指針は、臨床研究における電子健康記録(EHR)データ利用を奨励し、EHRと電子的データ収集(EDC)システム間のデータ標準化と相互運用性の拡大を促進して、21世紀医療法に規定された要求事項を充足することを目的としており、EHRおよびEHRデータを保存・統合するEHR臨床データウェアハウスから収集したデータを適用対象としている。臨床研究で対象となる領域は以下の通りである。
ここでFDAは、ONCが所管する医療IT認証プログラムの認証を受けたEHRシステムの利用を推奨している。反面、ONCの認証を受けていないEHRシステムについては、適正なコントロールにより、データの機密性、完全性、可用性が保証されていることを示すために、以下のような点を考慮するよう推奨している。
加えてFDAは、本連載第28回で取り上げた「医療機器の規制に関わる意思決定を支援するリアルワールドエビデンス利用 - 業界および食品医薬品局スタッフ向けガイダンス」(関連情報、PDF)の中で、リアルワールドデータ(RWD)の具体例として、電子健康記録(EHR)から派生したデータを挙げている。リアルワールドデータを規制に関わる意思決定に利用する場合、データの「妥当性(Relevance)」と「信頼性(Reliability)」が要求されるが、ONC認証済のEHRシステムから生成されたデータであれば、品質保証の負荷が大きく軽減される。
ONCが所管する医療ITシステムとFDAが所管する医療機器は、従来、縦割サイロ状態にあったが、APIを介して両者間のデータ相互運用性が確保されれば、さまざまなソースから収集されたデータを集約・格納する「データレイク」を構築し、臨床研究やRWD/RWE分析研究に2次利用して、新たな医療機器製品の創出・上市、市販後安全対策、データ・マネタイゼーションなどにつなげることも可能となる。
折しも2019年2月11日、トランプ大統領は「人工知能における米国のリーダーシップ維持に関する大統領令」(関連情報)を発表し、AI主導の新産業創出に向けた技術規格の標準化、国境を超えた産官学連携研究開発の強化などを打ち出した。AIアルゴリズム開発の鍵を握るのは、大容量かつ高品質の学習用データセットだ。データの相互運用性を味方につけた医療機器企業にとっては、技術やビジネスの領域を拡大できるチャンスが待ち構えている。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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